2. 初キャンプと問題児

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「料理できる人、手を挙げて!!」 宇野先輩の掛け声とともに手を挙げたのは 越前くんと羽瀬先輩のみ。 6人中2人という壊滅的な状態だった。 「やっぱお坊ちゃんってダメなんすね…」 「酷い!!!君だってできないんじゃん!」 「俺はできますよ。えーちゃんに包丁持つの禁止されてるだけで、作れます」 「それたぶんできてないんだと思うけど」 「はい???そんなことないですけど??」 宇野先輩に突っかかる永久くんの構図にはもう慣れてしまった。きっと2人は仲良しなんだ。 神井くんはさっきから ぐふぐふ と変な声を出していて ついに永久くんに 「かの、変な妄想してたら怒るよ」 と言われてしまっていた。 まぁ、彼はそんなことで諦めないんだろうけど 「西園寺くんも料理できない?」 「えっと…したことないです。危ないからダメって言われてたので…すみません」 「おっけーおっけー! 俺もそんな感じだから安心して!」 しゅん…と落ち込んだ瞬間、宇野先輩がぽんと背中を叩いて励ましてくれる。 永久くんは 「しづの半径2mにはちかづかないでください」 なんてことを言っていたけど、宇野先輩は 「いやでーす」 とさらりとかわしていた。 料理は孝広くんがしてくれてて、手伝おうとしても 「怪我したら危ないですから」 って包丁はおろかピーラーすら握らせてくれない。できて卵の殻剥きくらいだったから、料理という経験はないに等しい。 「とりあえず慣れてる越前くんと羽瀬先輩は具材切る係でお願いします!!!」 「うっす」 「りょーかい!」 「俺らはひたすら皮むきしよ!、霜月くんは怖いからピーラー持たないで。怖いから」 「何で2回言うんですか、分かりましたよ」 はいっ! と宇野先輩に手渡されたピーラーを握って、初めてだなぁと思わず観察してしまった。 霜月くんは戦力外通告をされて、騒いでいる神井くんと一緒に火を起こす担当になった。 宇野先輩が使っている様子を見た後に自分もジャガイモにピーラーを通せば、するすると簡単に皮が向けて思わず おぉ… っと感嘆の声を漏らしてしまった。 「ピーラーも初体験?」 「はい。危ないからって…」 「あはは!子供でも出来るようになってるのに、大事にされてるんだね〜」 宇野先輩は 料理をできる人 に手を挙げてはいなかったけど、するすると器用にこなしていて、俺が1つ剥き終わる頃には3つ目に取り掛かっているくらいの差があった。剥き終えた野菜はボールに入れて、切る担当の越前くんたちに渡していく。 下をむく度にさらさらと前髪が動いて、もう結ってしまいたくなるけれど天満くんとの約束を守る訳にはいかない。彼が俺に頼むことは全部、俺のためだって分かっているから。俺は天満くんが言うようにしていれば、安全なんだ。 「よっし!終わったー!!!」 全部を向き終わった頃には変に力が入ってしまっていたのか体がバキバキと音を立てる気さえしてしまった。 宇野先輩はずっと喋るでもなく、ずっと静かということもなく。ちょうどいい具合に話しかけてくれて、とても接しやすい人だった。 たぶん俺が、口下手だっていうのに気づいてそうしてくれたんだと思う。 「しづ〜、終わった?」 「うん…!終わった」 「しづ偉いじゃん!よしよーし」 わしゃわしゃと頭を撫でられて、慣れてしまったとは言え、えへへ と思わず口からこぼれてしまう。 永久くんは兄弟がいるんだろうか 甘やかすのがすごい上手だ 料理経験組がぱっぱと作業をして、俺たちは頼まれた仕事をこなしていると、いつの間にかカレーはいい匂いを引き立たせていた。 お皿に永久くんたちが炊いてくれたご飯とカレーのルーをかけて、全員分を机にのせていく。 「やば〜!めっちゃおいしそう!!」 スマホをいの一番に掲げ、写真を撮る宇野先輩を見てすごい現代っ子だな…とおじいちゃんのような感想を思い浮かべてしまった。 「「いただきまーす」」 全員がぱちりと手を合わし、食事前の挨拶をする。 「え、うま!!!」 「えーちゃんと羽瀬先輩、天才!」 「んー!!おいしい!!」 「カレーとか久々に食べた…」 などと各々がいろんな表情を見せ、それでも幸せそうに笑っている。 かくいう俺もあまりのおいしさにへにゃりと頬は緩んでしまった気がする。向かいに座っていた神井くんが 「バリ天使!!なにこれここは天国か?!!!」 と大騒ぎしていたから、だいぶ変な顔をしてしまっていたのかもしれない。 カレーの写真をパシャリと撮って、天満くんと孝広くんに送った。 「みんなはカレーに付けるなら何が好き?」 「福神漬じゃないんすか?」 「え?!らっきょうでしょ!」 「はぁ?!んなわけないじゃん!!」 「いやいやいや、福神漬は王道すぎてダメ」 「なにそれ、らっきょうも変わんないし」 「俺は温玉が好きかなぁ」 「「それは論外」」 「ひっど…!!俺の事なんだと思ってんの!」 「あ!俺はチーズが好きだけど」 「「羽瀬先輩…それは最強っすわ」」 神井くんと永久くんはいつも口喧嘩?をしているけど、やっぱこういうのを見ると仲良しだなぁって思う。 論争の最中、宇野先輩は 「後輩が酷い…」 としくしく泣いていて、反対に羽瀬先輩は「後輩って可愛いなぁ」 とにこにこしていた。越前くんは呆れた表情で口を挟まずにその様子を観察していただけだった。
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