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「トワ!なんで無視するんだ!!」
「あ、ごめん。気づかなかった。じゃ」
「なんでそんな酷いこと言うんだよ!」
僕の手を掴んでいる永久くんの手をガシリと誰かが掴んだ。さっき声を出した彼だろう。
近くで大きな声を出されて 頭がガンガンと痛くなる。
振り向いた先にいたのは 小柄な少年。小柄と言っても俺よりは随分と大きい。黒髪のくせっ毛がふわふわしていて、触り心地が良さそう。可愛らしいお顔をしてはいるが、羽瀬先輩と比べると取るに足らない。失礼だけど。
永久くんの服が伸びていて、永久くんは今までに見たことがないくらい冷たい目をしていた。こちらを見られている訳では無いけれど、ドキリと心臓が音を立てた。
「手、離してくんない?」
「嫌だよ!最近、俺のことずっと無視してるし、避けてるだろ、冷たい!」
「そんなことないよ」
永久くんはじっと彼の手を見ている。
男の子はぐっと苦虫を潰したような顔をした後、永久くんの表情に臆することなく腕を掴む手は緩めない。
ふと、男の子がこちらを見た。俺の顔を見た後に分かりやすいくらいげんなりとした顔を見せ、そのまま視線を下ろし永久くんと繋いでいる手に行き着く。急に静かになった彼の横顔はどうやら怒りに満ちている気がする。
「誰? お前」
「えっと…」
「トワに触んなよ、気持ち悪い」
「あ…ごめんなさい」
パチンと小さく音をたてて叩かれた勢いのまま手は離れた。叩かれた部分がヒリヒリと痛む。
男の子は恨みの籠った目でギッと俺の事を睨んでいる。
「しづしづ、こっち」
お互いに引かぬまま何故か見つめ合う形となってしまったが、神井くんが俺を背中の後ろに隠してくれたことで視界から居なくなった。
あの目に見られていないことに、ほっと息を吐く。
「お前、ほんといい加減にしてくんない?」
「トワを守ってやったんだよ?」
「そういうの迷惑。しづは俺の友達で、俺から手繋いでるし、気持ち悪くない。前も言ったよな?俺の友達傷つけたら許さねぇって」
男の子はうるうると目を潤ませながら、やはり永久くんの腕にしがみつく。永久くんはどんな感情を持っているのか分からないけど、やはり冷たい目とそれに負けないくらい冷たい声で彼に返していた。
「もう永久に近づくのやめろ」
「お前…ッ…!いつも邪魔ばっか!!」
「永久が迷惑だって思ってるなら邪魔するに決まってるだろ、ストーカー」
「はぁ?!ストーカーじゃない!」
親の仇か とでも言いたくなるくらい越前くんを睨みつけている。どうやら彼の目的は永久くんのみで、永久くんの周りにいる俺たちは邪魔者でしかないらしい。
彼の目には見覚えがあった。孝宏くんの 彼女 を名乗る女性たちが俺をそういう目で見ていたから。
男の子はきっと永久くんのことがそういう意味で好きなのだろう。
「…もういいし。また後で来るから!」
「もう来んな」
「トワ冷たい!絶対来る!!」
男の子は永久くんにだけ にこりと可愛らしい顔を見せた。対する永久くんの表情はぴくりともしていないけど。
「しづ、行こう」
こちらを見た永久くんの顔はへにゃりといつものような笑顔。さっきまでとの温度差にこちらが驚いてしまったくらいだ。
「羽瀬先輩寝てるかなー」
「天使の寝顔!!? 見たいから早く帰ろ!?」
「神井キモイ」
「ダーリン私にだけ厳しい!!!」
「誰がダーリンだ」
「あ!永久っちがダーリンだったねめんご!」
「かの〜、今日はお外で寝る?」
「嘘です!!ごめんなさい!!!!」
3人がいつもの調子に戻ったことに安心して、ほっと息を吐いた。
チラリとさっきの男の子が行った方を振り向くと、彼は少し離れたところに立ち止まっていた。ぱちりと目が合って、ゆっくり口が動く。
焦ったように ふいっ と顔を前に戻した。
ドクドクと心臓がうるさいくらい鳴っている。
「しづ〜?」
待ってくれている彼らの方に駆け寄りながら、思い出す。
声が聞こえた訳でもないのに、なぜかはっきり理解してしまった。
『消えろ』
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