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「…眠れない」
「そりゃあ…先輩、昼にめっちゃ寝てましたもん」
「え、だよね?寝すぎたよね??」
コテージに戻った後、順番にお風呂に入ってベッドに潜り込んだ。
が、羽瀬先輩はどうやら完全に目が冴えているらしい。お昼に俺たちが川で遊んでいるあいだも隠れんぼしている間もずっと寝ていたから、仕方がないことだと思う。
「どうしよう、困ったな…」
「お話でもします?」
「話題ちょうだい!」
「えー…先輩って何部でしたっけ?」
「ん?茶道部だよ」
「あ、雅くんと一緒だ」
雅 という名前をどこかで聞いたことがある気がすると思案したが、すぐに副会長のことだと思い出した。そういえば宇野先輩は生徒会の人なんだった。話しやすい人だったから忘れていた。
「お茶たてれるんですか?」
「もっちろーん」
「え、今度飲みに行っていいですか?!」
「いーよいーよ!ぜひ!」
羽瀬先輩はにこりと笑う。
神井くんは 「やった〜!」 と言いながらぴょんぴょん跳ねて、また永久くんに怒られていた。
布団を被って横になったのが間違いだったらしい。昼間に珍しくはしゃいでしまったからか、慣れない料理をしたからか、体にはだいぶ疲れが溜まっていたらしい。
みんなが楽しそうに話しているのを聞いていると、うとうとと眠気が襲ってくる。
まだ起きていたいんだけどなぁ…とは思うが、睡魔には勝てなくて、少しづつ意識は落ちていった。
「そういえば、茶道部ってあの人居ましたよね」
「あーね」
「前の生徒会長でしょ?」
___綾辻天満
何人かの声が揃って聞こえた名前に 日課の電話をし忘れていたことに気づいた。
が、そのままぷつりと睡魔に負けてしまった
________
すーすーと小さく規則正しい音が聞こえることに気づいた霜月はちらりと寄りかかっていたベッドの方を見た。
小さい山が少しも動かずに丸まっていて、顔を覗きこめば何とも穏やかな表情をしている。
さらっと前髪が動いたが、彼の顔は全部見えそうで見えない。
「寝た?」
「です。寝る子は育つってやつですね」
きょとりと首を傾げた羽瀬は、霜月の答えに対して 「じゃあ小声だね〜」 と微笑んだ。
神井は ショタの睡眠 がどうとかと騒いでおり、霜月は 「しづのこと起こしたら追い出す」 と神井を睨んだ。いつものことである。
霜月は誰にも勘づかれない程度に紫月の顔の方に体をズラした。今は壁側を向いてはいるけど、いつ寝返りをうつかわからないから。紫月が隠したがっている素顔をできるだけ他の奴に見せたくはなかった。
越前はパチリと照明を1つ落とした。
「綾辻先輩かぁ…久しぶりに聞いたな」
「ね。ここにいる時は誰よりも騒がれてたのに」
「圧倒的攻め要員で美味しかったんですけどね〜」
「ふふ、ちょっと何言ってるか分からないなぁ」
神井と羽瀬が目を合わせてにこにこと笑い合う。言葉が通じているかと言われればそんなことは無いのだが、神井は全く気にしていなかった。
「綾辻先輩、お気にが出来たって噂だったじゃん」
「どうせ可愛い子なんでしょうね」
話題に上がるのは数年前に卒業した綾辻天満という男について。霜月たちの4つ上になるため在校の時期が被ることは無かったが、中等部と高等部はわりと情報が届くためよく知っていた。
霜月はその人を一度見たことがあるが、圧倒的なオーラに 将来日本を率いていくのはこの人か と思ってしまったくらいだ。
それだけの男となれば伝説も多く、その話で盛り上がってしまい、気づいた時には全員寝落ちしてそのまま朝を迎えることとなった。
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