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前に住んでいた場所ではほとんど無かった鳥の囀り。この学園に来てからはよく耳にしており、その声で目を覚ますことも多い。
「しーづー」
ゆさゆさと少し揺さぶられて、気持ちよかった睡眠から少しづつ意識が覚醒する。ぼんやりとした頭は自分を起こそうとしてくれた人をうまく捉えきれず、つい彼の名を呼んでしまった。前の家でよく寝坊助な俺の事を起こしてくれたあの人の名前。
「あはは、寝ぼけてるしづも可愛いね」
「ん…ぅ……とわくん?」
「そ!おはよ、しづ」
「おはよ…」
かくりと頭が下がった俺を見て、永久くんはまた声を出して笑った。数秒そのまま固まって、脳が覚醒し始めた所で顔を上げて当たりを見渡す。
まだ羽瀬先輩と宇野先輩は夢の中にいるようだった。神井くんはキラキラとした顔でこちらを見ていて、越前くんの姿は見当たらない。
「えーちゃんはね朝シャン行った」
「え」
「朝に走るのが日課だから、毎日こんな感じ」
そう言われて、永久くんの髪を少し濡れていることにようやく気づいた。首にかけられたタオルも湿っており、さっきまでシャワーを浴びていたのだろう。
毎朝2人でランニングをするのが日課だと。
どうやらこの学園に入る前からずっと2人で続けていたらしい。バスケ部の永久くんの体力作りに越前くんが付き合っている形だとか。越前くんは部活に入っていないから、体を鍛えるためでもあるらしいけど。
「神井くん、おはよう」
「おはよー!朝からありがとうございます!」
「ん、?うん」
土下座のように頭を下げられて、未だに覚醒しきっていない頭では何が起こったのかよく分からず曖昧な返事を返してしまう。
それでも神井くんは 「うっひひ、爽やかくん×無自覚うま!!」 などと不思議な方程式を口にしながらにやにやしていて、髪を乾かしていく途中だった永久くんに 「カノ、きもー」 と蔑んだ目で見られていた。それすらも傷つかないようで、神井くんの心臓はすごい丈夫だと思う。
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