288人が本棚に入れています
本棚に追加
「終わっちゃったね〜」
帰りのバスに揺られながら永久くんの言葉に頷いた。ふわ…と小さい欠伸が漏れる。特別早起きをした訳では無いけど、慣れないことの連続で一度寝ただけで体の疲れが取れなかったのだろう。
「永久くん、ありがとう」
「…はは、こっちこそありがとうだよ。
こういう行事苦手だったけど、楽しかったし!」
彼がこういった行事を嫌っている理由は聞いていないから分からない。偏見なんだろうけど、彼のようなタイプの人はみんな学校行事が好きなんだろうと思っていたから不思議だと思った。まぁ、理由なんてきけるわけがないし、聞く必要も無いと思っているからどうでもいいんだけど。
宇野先輩とか羽瀬先輩みたいに初めて話せた人たちもいて、4組の子たちとも話せる機会があった。今まで行事なんて無くなればいいって思ってたし、参加してないことの方が多かったけど、楽しいって思えたのは永久くんたちのおかげだ。
窓をぼんやり眺めていると、ふと気づいた時には永久くんはすやすやと居眠りをしていた。手に持っているスマホが落ちそうになっていたため、気づかれないように取ってカバンの中に入れる。
はしゃいでいたクラスメイトたちのうち何人かは同じように眠ってしまったらしく、バスの中は行きとは打って変わって静かだった。
自分のポケットに入れていたスマホが震え、メッセージが届いたことを伝える。スマホを開いて確認すると、案の定 天満くんからだった。俺に連絡をしてくるのなんて天満くんか孝宏くんだけだし。
3人しかメンバーのいないグループのところに1つのメッセージが届いている。
『楽しかったですか?』
新入生歓迎会に行くのだと話をした時に、随分心配そうに何度も確認をしてきた天満くんは今でも心配しているんだろう。昨日、電話を忘れてしまったから余計に。
『楽しかったよ。2人に聞いて欲しいこといっぱいあるから、夜に電話してもいい?』
『紫月が楽しめたなら良かったです。
もちろん、夜を楽しみに待ってますね』
数秒と経たずに返信が来た。孝宏くんも天満くんも返信は絶対に1分以内にしてくる。タイミングが良いだけなのかは分からないけど、たったそれだけの事でも自分は2人にとって特別なんだって思えて頬が緩んでしまう。
孝宏くんは基本返信が遅いらしい
天満くんも大事なもの以外は後回しにすることが多いらしい
「……会いたいな」
つい、ぽつりと声が漏れてしまった。
まだ2週間ほどしかたっていないが、そもそも今までこんな長期間顔を見なかったことなんてないのだ。ビデオ通話をしようとそこに温もりが無いのだから。
会えるとしてもきっと夏の長期休暇の時。
それまであと2ヶ月ほどの我慢だ、と自分に言い聞かせて、目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!