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「しづ〜!しづ!しづ 聞いて!!!」
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自分の携帯から着信を告げる音がなり、不思議に思いながら手にすると、そこにかかれていたのは数時間前に教室で別れた彼の名前。
耳に当てた瞬間、彼はとても興奮したような声で俺の名前を連呼していた。
「どうしたの?」
彼にしては珍しい。あのさ、あのさ!と急ぎすぎていてなのか、興奮しすぎているのか、早く言いたいと思っているのに言葉は上手く出てこないようだった。
「あ、直接言うわ!しづ、食堂来れる?!」
「え、うん」
「じゃあ、食堂来て!入口で待ってるから!」
こちらが返事をする前に電話は途切れてしまう。永久くんの声が漏れていたのか、楓さんはこちらを見ていて、「食堂?」 と首を傾げている。
「はい、行ってきます」
「あー…霜月がいるんだっけ?」
「はい」
「なら平気か。知らない奴について行くなよ」
なんとも言えぬ表情を見せていた楓さんは、待ち合わせをする人間が永久くんだと知ると安堵の表情を見せた。ぽんと一度、俺の頭を撫でてから 「俺は普通にここで食べるから。ゆっくりして来いよ」 と笑った。
いつものローファーではなく、スニーカーを履く。寮ではいつも部屋でご飯を食べているし、大浴場も利用しないから、帰ってきてからまた部屋を出るっていうのは初めてに等しい。
「あ」
「西園寺か」
丁度と言うべきか。俺が廊下に出たのとほぼ同時に隣の部屋の扉も開いた。
制服姿で出てきた彼はまた学校にでも行くのだろうか。いつ見ても着崩れの1つもないぴしりとした格好をしている彼は、風紀委員長だったりする。まぁ、見ればわかると思うけど
「どこか行くのか?」
「食堂に」
「1人で?」
「友達と待ち合わせてます」
「楓には?」
「ちゃんと言ってあります」
真面目かつ少しいかつめの風貌の彼にだだ単に質問をされているだけなのだが、尋問でも受けているような気になってしまう。不思議だ
「そうか」
俺の回答に満足したらしく、それ以降は口を開かない。無口と言うか寡黙なんだろう。
「学校ですか?」
「いや、食堂だ。
問題を起こしたヤツがいると報告を受けた」
どうやら行先は一緒らしい。
エレベーターに乗って食堂がある階のボタンを押した。
「楓はいつもと変わらないか?」
「はい」
風紀委員長と楓さんは昔からの友人らしい。風紀委員長の方が1つ年上ではあるが、一緒にいて苦ではないらしく、楓さんを風紀委員に誘ったのも彼だった。そして、俺以外で楓さんの素顔を知っている数少ない人。
だからこそ、寮内でのトラブルの対応は基本 風紀委員長が行っている。楓さんに無理をさせないためらしい。楓さんは もう慣れた と言っているが、それでも笑顔を作り、自分を偽る時間が長いとと不安定になる事も多々あるとか。だから、せめて寮内では無理をすることがないようにと、風紀委員長から楓さんへの気遣いだった。
お目当ての階についたことをベルが知らせ、ゆっくり扉が開く。風紀委員長が扉が閉まらないように抑えてくれたため、慌ててエレベーターから降りた。
「楓が無理してるようだったら、西園寺からも休むように言ってやってくれ」
「はい」
「ついでに俺に報告してくれると嬉しい」
コクリと頷いてみせると風紀委員長さんは満足したように少し笑った。
食堂に向かう道すがら、キャッキャッという声があちらこちらから聞こえたり、鋭い視線が向けられる。楓さんといる時も永久くんたちといる時も、いつだって向けられている視線だからもう慣れたようなものだった。
こそこそと聞こえるような声に風紀委員長さんは 不愉快だ と言うように顔を顰め、それを言っている子のことを鋭く睨んでいた。
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