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「あ!し、づ………」
食堂の扉付近に立っていた永久くんは俺の存在に気づいたのと同時に、隣にいた風紀委員長にも気づいたようで、なんで?と首を傾げた。
が、永久くんは食堂の方が何やら騒がしいことに気づき、さらには風紀委員長のげんなりとした表情を見て 「あぁ…」 とほんの少し気の毒そうな表情を見せた。
「お役御免だな」
「伊佐先輩、ありがとうございました」
「いや、行き先が同じだったから気にするな」
風紀委員長、もとい伊佐先輩の言葉に俺が答えるよりも早く永久くんが少し頭を下げた。
俺も慌てて 「ありがとうございました」 と頭を下げると、伊佐先輩は 「楓が世話になってるからな」 と言いながらほんの少し笑い、食堂の方に入っていった。
伊佐先輩が入った瞬間の食堂からはざわりというどよめきとほんの少しの悲鳴が聞こえる。
伊佐先輩の後ろ姿をじぃっと見送った永久くんくるりとこちらに振り向き、にこっと笑った。
「急に呼んじゃってごめんね、直接言いたくなっちゃってさ」
一緒に食堂の中に入り、食券を買う。ちらりと奥の方を見れば伊佐先輩とあの時見た彼の顔が見えた。目を合わせないよう焦ったように食券に目を向けると、「どうしたの?」 と永久くんに首をかしげられてしまった。
それに対して首を横に振り、うどんのボタンを押す。永久くんは部活終わりでお腹がすいていたのだろう、A定食とうどんを買っている。
食堂の人からのトレーを受け取り、空いていた席に座る。その間、ずっと視線を感じていたけど慣れてしまったのか気にならなくなっていた。
パチリと手を合わせて2人の 「いただきます」 という声が重なった。
「なにげ、しづと2人きりでご飯とか初?」
「あ、そうかも」
「だよね。いつもえーちゃんとカノもいたからなぁ」
他愛のない会話をしている間に永久くんの口にからあげが消えていく。
「あんたに用ないんだけど、どっか行ってよ」
「うるさい、さっさと来い」
「は〜?何様なのさ?」
「風紀委員長様だ。はやく来い」
あの男の人と風紀委員長の口論は未だに続いている。風紀委員長の顔は面倒と言いたげにゆがめられていて、男の子は嫌だ嫌だと駄々を捏ねている。
永久くんはフードを被っているが、どうやら彼に見つかりたくないらしい。
「しづ、あいつにちょっかいかけられてない?」
「ううん、ないよ」
「なら良かった」
ほっと息を吐いた永久くん。
しづにも唐揚げあげる〜とニコニコ笑いながら小皿に1つ置いてくれた。ありがとう、と言っているうちに遠くの方から 「あぁ!!!くそ!!!!」 という風紀委員長の声が聞こえた。
「来い」
「はぁ?!!」
みんなが不安そうに眺めていた二人の攻防は、風紀委員長が痺れを切らして彼の腕を掴み食堂の外に引きずって行った。
ギャーギャー騒いでいたけど、風紀委員長はそれを全て無視。二人がいなくなった後の食堂は少しの間しーんとしていたが、少しずつザワザワと騒がしくなっていった。
「あー…やっと居なくなった」
ぱさりとフードを外して、髪についた跡をプルプルと首を横に振ることで直した永久くんは1口水を飲んだ。
「そうそう本題ね。しづ、6月20日って暇?」
「えっと…たぶん?」
「あのさ、その日バスケの試合あるんだけど来て欲しいなぁって思って」
「え、いいの?」
俺がそう言った瞬間、不安そうにこちらを見ていた永久くんの顔がパァっと輝いた。
「ほんと?!あのさ!俺、スタメンに選ばれたんだよね!だからしづに見て欲しくて!!」
「バスケ…ルール知らないけど大丈夫かな…」
「大丈夫!教えるから!
しづが来てくれるなら死ぬほど頑張れる!」
もうここで飛び跳ねてしまうんじゃないかというレベルのはしゃぎ様にソワソワとしてしまう。俺が来るってだけでこんなに喜んでもらえたことなんて無いし、こればっかりはいつまでたっても慣れないんだろうな、と思ってしまう。
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