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目の前に立つ2人の男
その存在のせいで幸せだった気分は一気に最悪となった。
しづの中学の時の友人を名乗る男たちに舌打ちを零しそうになったが、それはぐっと飲み込む。
ちらりと横目で見たしづの顔は真っ青で、震えていることがすぐ分かる。たぶんと言うかほぼ確実に、しづはこの2人を恐れている。あいつらが何をしたか、とかは知らないけどおおよそ そういうこと なのだろう。
自分の背中にしづを隠して、ただ落ち着いてもらうために しづ の手を握った。
「つーか、お前こそなんなの。関係ねぇじゃん」
「関係あるよ。俺はしづの友達だから」
そう言うと2人はぽかんと口を開けたあと、ぶっ…!と吹き出して大層可笑しそうに笑いだした。
そんな男たちの様子を見て、自分の頭がすごく冷めていくのを感じる。
「まじで言ってんの?」
「こんなグズと友達やるやついたんだ。物好きじゃん」
「お友達ができてよかったね〜、根暗くん」
ケラケラと笑うそいつらがゴミのように見える
あぁ、生きてる価値ないなって
なんて醜いんだろうって
ただ頭の中はそれだけで、怒りとか通り越したような気さえする
目の前の男はそれは愉快そうに中学生の時のしづがどういう子で、どんな扱いを受けていたかを話す。それはもう己の武勇伝のように。
はぁ…とため息がもれた
思っていた以上に大きかったそのため息に、男たちの口が止まった。
「……しづの魅力を分からない愚人はどうでもいいんだけど」
存在すらも無視してしづの手を引いて帰ってしまいたいくらいだ。話したくもない
「頭の悪い君たちには分かんないんだろうね。寂しい関係性しか築けない低能な人間だから、自分たちが過去にしてた自慢にもならないことをそうやって得意げに話す。知ってる?しづが正当に訴えたら君たちは傷害罪で罪に問われる可能性もある。少年院とまではいかなくても、履歴書には傷が残るね。あぁ…そこら辺に鼻の効く友達がいるんだ。頼んでみようか。きっと君たちに勝ち目はないよ」
最初こそ「愚人」「頭が悪い」と馬鹿にされて顔を真っ赤にしながら怒り狂っていたが、「傷害罪」「訴える」という単語が出始めたあたりからは少しづつ顔色を変えた。
友達のことを口にした瞬間にはもう顔色は真っ青
「喧嘩売る相手は選んだ方がいいんじゃない?俺たちが通ってる学校がどんな場所か分からないほど、馬鹿じゃないでしょ?」
全国的に名の知れている学校だ。
近場の学校である彼らが知らないはずがない。
政治家の息子、大手社長の息子、跡取り、芸能界ですでに成功している者、会社経営者などなど
外部生の一般人もいたりするが、それでもあそこに通う生徒のほとんどは日本の中でトップクラスに近い人たちばかり。将来、日本を背負う可能性のある者たち。
その中には当然、弁護士の息子だったりもいる。
「さっきの試合も酷かったね。わざと足踏んだりとかして。…あぁ、そうだ。君がわざと転ばせた人、遠縁だけど大臣と血縁関係がある子なんだよね」
家で喧嘩を売るわけじゃない
そもそも自分とは関係ない子なのだから
それでもただの一般人であるこいつらには、到底どうも出来ないような存在を相手にしているのだと分からせる必要がある。
きっとその人は優しいから告げ口をするようなことはしないんだろうけど。
「っ……」
真っ青で涙目で、さっきまでの威勢はどこにもない。
自分よりも弱い相手にしか強く出ることができない男というのは何とも哀れだ
「金輪際、しづに近づかないって約束しろよ」
鋭い目で睨みつけて、その男たちを見下ろせば声すら出せなくなったのだろうか、こくこくと何度も頷いていた。
「何やってんの」
さっさとどっか行け、と口を開こうとした途端に横から掛けられた声。声の主はさっき俺が言った「そこら辺に鼻の効く友達」。
そこには神井もいて 「誰?こいつら」 と首を傾げている。
見た目だけは完全に不良である えーちゃんの姿を見た瞬間、男たちは情けない悲鳴をあげて逃げ出した。
「………最後までだっさ」
いらない
あぁいう他人を攻撃するしか脳のない人間はやはりいらない
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