3. 俺の友達だけど文句ある?

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「えーちゃんおかえり、遅かったね」 「混んでた」 「あー、なるほど」 「まっって!!俺は今!すごく大事なものを聞いた気がする!!!!」 「カノ、うるさいよー」 あの2人が逃げるように帰った後、いつも通りの騒がしさに、ほっと息を吐いた。 ぱちりと目が合った永久くんは、「あんな奴気にしなくていいよ」 とふわりと笑った。 「なーんか詳しいことは分かんないけど、俺も殴りたかった!」 「殴ってません」 「永久っちは言葉で殴るタイプだよね!」 「そんなことない」 あいつらが誰なのかとか、何をされていたのかとかそういう事は分からないけど、おそらく俺が絡まれて、それを永久くんが助けたのだと言うことは分かっているのだろう。 「しづしづはかわいいから絡まれちゃうんだね〜」と頭を撫でる神井くんは俺よりももっと可愛い顔をしている。それに… 「え、なにその 初耳です みたいな顔」 神井くんが むっと唇を尖らせた。 俺がほんの少し首を傾げると ふぎゅっ と変な声を出したが、神井くんは相変わらず拗ねたような顔をしている。 「しづしづは可愛いよ」 「?」 「え、なぜ分からない??毎日言った方がいい?」 「ん?」 「俺のこと?みたいな顔しないで!かわいいね!!」 「そんなことないよ」 「そんなことあるよ!??!」 「カノ、うるさい」 がしりと俺の両肩を掴んでいる神井くんは「かわいい」を連呼している。それが誰に向けられているものなのかイマイチ分からなくて首をかしげれば、「なんてこったい!」 と叫びながら天を仰いだ。 「俺的には無自覚美人がイケメンをほいほいと落としていくところも見たいけど、なんかこのままじゃしづしづは危ない気がする。知らない人について行っちゃダメだからね。自覚するまで毎日かわいいって言ってあげるから覚悟してね!」 「神井くんの方が可愛いと思う」 んぎゅぅ…とまたまた変な声を出した神井くんはうっすら頬を桃色に染めながら蹲った。 「なーんでちびっ子がお互い褒めあってんの?」  越前くんと話していた永久くんは、俺と神井くんの会話を聞いて不思議そうに首を傾げている。お互いが「かわいい」と褒めあっているのは女子ならともかく男子がしていると不思議に見えるだろう。  神井くんが「可愛いって言ってるのに分かってくれない」とすねたような口調で告げ口をすれば、それを聞いた永久くんもほんの少しいたずらっ子のように笑って、「しづはかわいいよ~」と口を開いた。 「かわいい……、かわいい?」 「うん」  俺が思っている『かわいい』と違う意味の言葉だろうか。 前髪を伸ばして顔のほとんどが隠れている様はお世辞にもかわいいとは言えないだろう。天満くんや孝宏くんにもよく言われていたけど、彼らのそれはもう保護者としてのかわいいに近い。親が子供に向けるそれとほぼ一緒なのだ。  俺が考えていることが分かったのか、永久くんは「なんていうのかなぁ…存在が可愛い」と言い、神井くんも「とにかく全部が可愛いんだよ」と、さらにはこれまで黙って聞いていた越前くんまで「神井とは違った可愛さだよな」と追い打ちをかけた。  困ったことに俺は褒められると言う事に慣れていない。こんな真正面からストレートに言われることなんてほぼない。あったとしても、それは天満くんと孝宏くんくらいで全然慣れない。  かぁぁっと赤くなった頬を見て永久くんと神井くんがまた「かわいい」と口を揃えた。  ころりとベッドに転がる。ふかふかの布団に体が沈むと、途端に眠気が襲ってきた。時間を見ればまだ21時をまわったばかりで、寝るには早い。  あの後、「ゲームセンターに行ったことがない」とぽろりとこぼれた俺の言葉を拾った3人は「ゲーセン行くよ!!」と俺の手を引いた。クレーンゲームが得意だという越前くんがとってくれたぬいぐるみはベッドサイドの棚に飾った。3人曰く俺に似ているらしい兎のぬいぐるみは質素な部屋でかなりの存在感を発揮していた。  水族館も動物園も映画館も。外に出ると行ったことが無い場所ばかりであちこちを興味深そうに眺める俺を見た永久くんは「しづが行ったことない場所、全部行こうね」と微笑んだ。 門限に間に合うよう夕方には帰ってきたが、部屋に入ってすぐ俺のことを見た楓さんはじっとしばらく観察した後、「楽しかったみたいで何より」と笑った。ぱちりと一度瞬きをすると「楽しかったって顔に出てんぞ」と声を出して笑い、楓さんはアイスの蓋を開けた。 「……ともだち」  みんなは聞かないでいてくれた。特に永久くんは彼らから中学時代の俺のことを教えられたのに、嫌な顔一つしないでいつも通り接してくれた。きっと気になっているはずなのに、俺に気を遣ってくれた3人は本当に優しいと思う。  
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