3. 俺の友達だけど文句ある?

9/13
前へ
/55ページ
次へ
 中学の3年間の内、紫月がしっかり学校に登校して授業を受けたのはその半数にも満たない。  今日、話しかけてきた2人、加地と進藤は中学1年生の時のクラスメイトだ。特に進藤とは出席番号順での席が前後だった。 当時から紫月は人と話すのが苦手だった。 特にみんなの前でする自己紹介なんて苦手どころではなかったのだが、新入生に自己紹介は必須。おどおどとした小さい声は、いわゆる陽キャと言われる男たちにとって不愉快で そういうこと の格好の対象になった。あの瞬間に紫月は目を付けられている。  本格的に「いじめ」というものが行われるようになったのは入学してから1ヶ月が経過したころだった。主犯は加地と進藤であるが、2人以外の何人かがそれに加担していた。人は自分に害が及ぶことが無いよう見たくない物は見ないふりをする。その行為に対して、正義感を見せようものならその対象が自分に向くかもしれないから。他のクラスメイトに指示をだしたのか、ただ空気を呼んでそうしていたのか知る由もないが、紫月はクラスどころか学年中の生徒に無視され、完全に孤立した。 全員が紫月がそこにいないものとして扱っていた  最初こそ物を壊されるだとか、盗まれるだとかそんなものだったのだが、どんどんエスカレートしていった。数ヶ月がたった頃には殴る蹴るの暴行は当たり前となった。痣が消える前に新しい痣ができる。紫月の体には大量の痣と傷がつき、チクチクと体を動かす度に痛んだ。 西園寺紫月という存在が何をされようと周囲はお構いなし。しばらくすればその環境に慣れたのだろう、同情の目を向けられることもなくなった。むしろ、休み時間に教室の隅で騒いでいる男たちがうるさくて仕方なかったのだろう。お前はいらないのだと、他の人の目もそう告げていた。それは生徒だけではなく、教師もしかりだった。 休み時間に暴行を受けて、授業に遅れることが多々あった。ボロボロになって教室に戻ってきた紫月を見て 「何していた。授業を受ける気がないなら外に出てろ」 と冷めた目で睨み追い出すこともあった。 「生きてる価値ないよ、お前。なんで生きてんの?」 「息すんな、臭いから」 「なんで来るかなぁ?ドМ?」 「ゴミを必要とする存在なんていねぇよ。さっさと死ね」 「あんた邪魔だから。よそ行っててくれない?」  家でも学校でも紫月は一人だった。毎日のように「いらない」「消えろ」「死ね」と言われれば心が病むのも当然で、ちらちらと雪が降っていた真冬に紫月の心はぽっきりと折れた。 服を着ていても寒さで体が震えるようなその日に、学校のトイレで冷水をかけられた。男たちは自分がかけたくせに 「汚い」 と嘲笑い、そしていつものように 「お前に価値は無い」 「そのまま死んでしまえ」 と口にした。 その時に初めて、もう死んでしまおうと考えた。 どうせ価値は無いのだから 誰も俺を必要としないのだから いてもいなくても変わらないから ──消えたって別に誰も悲しまない そう思った。そう思ってしまったその日 その時に 紫月の前に天満と孝宏が現れた
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

288人が本棚に入れています
本棚に追加