3. 俺の友達だけど文句ある?

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きっと紫月は忘れない。 あの時、真冬に薄着で外を歩き、水を被って恐ろしいくらい冷たかった紫月の事を思いっきり抱きしめた2人の顔をおそらく一生忘れない。 「学校なんて行かなくていいんです。あなたが生きてるだけでいい。それだけでいい。紫月が傍にいてくれるだけで、私は嬉しいから。お願いです、紫月。一緒に帰りましょう」  紫月にとってはそれが初対面だ。 それでも約1年ぶりに誰かに「紫月」と名前を呼ばれて、誰かに抱きしめられて、「生きてほしい」と言われて。嬉しかったし安心した。その言葉を誰か一人でもいいから言って欲しかったのだ。 ──あなたは生きてもいいよ、と ぽろぽろと涙がこぼれて、「生きてていい…?」と口にすれば天満と孝宏は嬉しそうに微笑んだ。  そこからの2人の行動は早いものだった。紫月が1人で生活していたアパートを解約し、2人で共同生活をしていたらしい豪邸に紫月を住まわせた。大した量が無かった荷物もすべて移動されており、紫月が二人と出会った翌日にはすべて整えられていたので、紫月は目を丸くした。 「昔のことは覚えていなくてもいい。ただ、俺達にはあなたが必要だと言う事は絶対に忘れないでください」  紫月が幼少の頃に二人と面識があった。3人で遊ぶくらい仲が良かったらしいが、突然紫月が姿を消した。それからずっと紫月のことを探していたのだが、紫月の周辺はその時期とあることでごたごたしていたからうまく情報が得られなかったのだろう。まだ幼かった紫月は彼らのことを覚えてはいなかったが、ほぼ初対面である2人の家に転がり込むくらいには気を許していた。  天満は学校に行かなくていいと言った。義務教育の範囲は私たちが教えるから、無理していく必要はない、と。どうしても行きたいというのなら学校を変える手だってある。天満が出してくれた提案に紫月はただ頷いた。一度心が折れたのに、またあの場所に行くなど出来るはずもなかった。 「彼らを消すこともできますけど、どうします?」  その提案には首を横に振った。「紫月はそう言うと思いました」と2人は笑った。今日話しかけてきた様子から見て、2人は本当に彼らに何もしていないのだろう。  ただ、いじめを認識しつつも黙認していた教師は別の理由をつけて解雇するなど何人かはきちんと裁きを受けている。 そう言うことがあって、紫月は中学1年のあの時からほとんど学校には行っていない。 それに対して教師から文句の1つも来なかったのは綾辻天馬の存在があったからだ。  2人以外誰もいらないと、籠っていたあの頃の自分は数年後に初めて友達と呼べる人が出来るなんて露も考えていないだろう。 今だって 嘘なんじゃないかと思ってしまうくらいなのだから
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