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どこの学校も一緒だろうが、夏休みに入る前に学生の一大イベントである学期期末考査がある。
「西園寺先生!もう全部が分かりません!」
「はい!俺は何が分からないのかもわかりません!」
彼女と旅行に行くからどうしても補習をパスしたいだとか、さすがに次赤点取ったら親にぶっ飛ばされるだとか、理由はそれぞれだったが、いわゆるおバカちゃんたちが紫月に泣きついた。前回の中間考査で紫月のテストの点数が驚くくらい良かったことを知っているからだった。
「お前ら、紫月にばっかり頼るなよ」
「こばやんは優しくない!俺は優しく教えてほしい!」
「へー…」
「あ、待って!小林大先生そのプリントは仕舞っていただいても!?」
小林くんはにこにこと笑みを浮かべながら、川原くんの机に大量のプリントを置いた。周りにいた子曰く、川原くんは中等部の頃から小林くんに面倒を見てもらっていたらしい。最初こそ優しく教えていたらしいが、川原くんの馬鹿さ加減に嫌気がさした小林くんは優しくしててもダメだといってスパルタ指導に変えたのだとか。川原くんはその大量のプリントを見て頭を抱えていた。
「小林の鬼」
「もっと欲しいって?」
「いえ!何でもありません!やります!!」
ちなみにあのプリントは小林くんの手作りだ。彼は前回の中間考査で学年1位だった。永久くんに聞けば中等部の頃から学年トップだったらしい。彼が言うには別に難関大学を目指しているわけではないが、問題を解くことが趣味。暇だからと手あたり次第、参考書の問題を解いていたらいつの間にかこうなっていたと彼は笑っていた。
クラスメイトに数学の解き方を教えながら、自分も参考書の問題を解く。俺も特別勉強が得意なわけではないと思う。中学の頃の結果は散々だったから。きっと天満くんと孝宏くんの教え方が上手だったおかげなのだ。
「…ん」
ぴたりと手が止まった。こうなってしまっては自分で解決策を見つけられない。自分の力量は己が一番分かっているから。
「小林くん」
「ん?どうした、紫月」
「あ、あのね…ここでつまちゃって、」
川原くんの席の前に座って監視をしている小林くんに近づき、ノートを見せる。彼は体をこちらに寄せて俺が手にしているノートを見た。「あぁ、これね…」とつぶやいた彼は川原くんの手をどかして、彼の机にノートを置き、川原くんのペンケースからペンシルを取ってさらさらと書き足していく。「ここに線を引いたらわかるんじゃない?」と言われて、どんづまってた頭が再び動き出す。俺が解き方に気づいたことに気づいた小林くんは笑った。
「ありがとう…!」
「いーよ。また分かんないことあったら聞いて」
「うん、お願いします」
小林くんは優しい顔でふわりと笑う。「紫月先生わかんない!助けて!!」と声が聞こえて、さっきまで自分が座っていた場所に戻った。
「こばやん、俺にだけ優しくない」
「川原に優しくする必要性ある?」
「え、酷い!」
「そんなことよりさっさと手動かしなよ。全然終わってないじゃん。何してたの」
「誰のせいだよ!さっきまで俺の机占領してたくせに!」
俺が小林くんに教えてもらっていた間、ほんの少し唇を尖らせてそのノート見ていた川原くんはどうやら拗ねていたらしい。自分の時との教え方の差に。「ついでに聞くけど、さっきの説明理解できたの?」「は?まったく分かんなかったけど?!」「…威張るなよ。試験範囲だぞ」と2人はまた楽しそうに会話をしている。
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