270人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
期末試験は1週間かけて行われる。
「終わったぁあああ!!」
最終日、最終科目の古典の試験が終わりクラスには歓声が上がった。試験さえ終わればあとは終業式が残っているくらいで、すぐに夏休みがやってくる。
「こばやーん!今回は自信あるよ、俺!」
「川原はいつもそう言ってるけどね」
「うぐっ…今回の俺は一味違うから!」
テストが終わった途端、小林くんに近づきがばりと抱き着く川原くんの姿にももう見慣れたものだった。神井くんはそんな二人を見て 「わんこ攻めもありだな…、いや…」 などとぶつぶつ独り言を零しながらも、うへへと笑っていた。とても楽しそうで見てるだけでうれしくなる。何を言っているのかはさっぱり分からないけれど。
「えーちゃん、最後の問題どれにした?」
「イ」
「やっぱそっちだったか…!」
ちなみに越前くんもかなり順位は上の方らしい。永久くん曰く 「教科書を一回読めばだいたい覚えられるレベルの天才」 らしい。神井くんと永久くんは一緒くらいで「よくもなく悪くもなくって感じ」と2人で笑っていた。
数日後に返却されたテストの結果に落ち込む者もいれば、想像よりも良かったのか大はしゃぎする子もいる。中でも一番はしゃいでいたのは川原くんだった。
「こばやん見て!!赤点がない!!!!」
テスト用紙を持って真っ先に小林くんのところに向かう川原くんがもはや飼い犬のように見えてしまう。俺の周りいたクラスメイトたちも「でた、川原犬」「さすが小林の忠犬」とつぶやいている。中等部の頃からのおなじみの光景らしい。
「え、ほんとに?採点ミスは?」
「ないよ!見て!」
「……ほんとだ」
嬉々として小林くんに答案用紙を渡した川原くんの目はキラキラと輝いている。じっと全ての答案を見比べた小林くんは少し驚いたように目を丸くさせていた。その小林くんの様子を見て、他の子たちも「えっ?!」と大きな声を出す。
「まじ!?川原やったじゃん!」
「うへへ、俺はやればできる子だから!」
「すごーい!ジュースおごってあげる!」
「やった!」
川原くんが全教科赤点回避は初らしい。永久くんも「よかったじゃん!」と言って川原くんの頭を撫でていた。一種のお祭り状態だ。川原くんが「紫月も教えてくれてありがとう!」と笑うものだから、俺は「大したことしてないよ」と首を横に振った。俺が教えたことなんてほとんど一部で、彼に教えていたのは小林くんだから。
「ねぇ褒めて!俺のこと褒めて!」
ぽかんとしていた小林くんの足元にしゃがみ 「撫でろ」 と言うように頭を差し出している。誰かがぽつりと 「やっぱ犬だ…」 と呟いた。
「…川原」
「うん」
「やればできるじゃん」
小林くんはふわりと笑った。そして川原くんのふわふわとしたくせっ毛をこれでもかというほど撫でた。川原くんは大人しく撫でられたまま、うへへと嬉しそうに笑っている。2人の雰囲気は独特だけど、俺はそれが嫌いではなかった。
むしろ心地いいとさえ思ってしまう
最初のコメントを投稿しよう!