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「えーちゃん、学食行こ。紫月も!」
「学食……?」
午前中の全ての授業で越前くんにお世話になりつつ、4時間目が終了したチャイムがなった瞬間、霜月くんが立ち上がった。
「そ!食堂!かの〜、お前は〜?」
「行きます行きます!行かせてください!!!」
どこからともなく現れたのは朝に倒れていた彼だった。
茶色のふわふわとした髪を揺らしつつ、元気に両手を上げながら走ってきた彼は俺を見て 「んぐぅ…」 と変な声を出した。
「これ、神井仁。悪いやつじゃないけど変なやつ」
「その説明の仕方は酷いと思う!!」
「核心はついてるだろ」
「響っち?!!!そんなことないと思うよ?!!」
「なんか男同士が仲良くしてるの見るの好きらしいよ
気持ち悪かったら容赦なく殴って良いからさ!」
「爽やかくんのくせに爽やかじゃない!」
びゃん…!と泣き真似をしている神井くんを見て霜月くんは あはは と楽しそうに笑うし、越前くんはふいっとそっぽを向いた。
扉の周辺で騒いでいるからか、教室を出る人たちに 「神井はただの阿呆だから気にすることないよ」 とか 「あとで僕とも話そうね!」 とか 「食堂ならカレーがおすすめ!」 とわざわざ声を掛けて背中をポンと叩いてくれた。
「はやく連れてってやれよ、席無くなるぞ」
「うーい。神井で遊んでる場合じゃなかった!!」
「俺、遊ばれてたの?!!」
菓子パンを咥えて机に座っている男の子に目を向けると、「俺は親子丼の方がオススメかな〜」 と言いながらゆるりと笑った。
ぽんぽんと背中を叩かれ、見上げると霜月くんだった。
にぃ…っと笑った彼は 「俺はうどんがおすすめ!」 と爽やかに告げた。
候補としてカレーと親子丼とうどんが上がり、さてどれを食べるべきかと 悩むはめになってしまった。
「ちなみにー、俺のおすすめはオムライスかな!」
「え…!」
さらに1つ増えてしまった選択肢に困ったのが顔に出ていたのか、3人は少しだけ可笑しそうに笑った。
「紫月が食べたいの食べな?何でも美味しいよ」
「うん」
「王道で行くとオムライスなんだよね」
「うん…?」
「また出た。王道とか知らないから」
「爽やかくんって俺にだけ冷たいよね!!!?」
「俺、爽やかくんじゃないし」
「む〜!!しづしづは俺の味方だよね?!」
「え?!」
思わず出てしまった大きな声に、神井くんも霜月くんも驚いたように目を見開いた。ぱちりと口元を押さえたが、時すでに遅し。
「あ、ごめん…あだ名とか初めてで…ビックリした」
「ま?」
「え、待って。
カノに紫月の初めて取られたのなんかムカつく」
「おっと〜?言い方がエッチ!」
「神井死ね」
「響っち!酷い!!!」
友人なんて今までできたことも無いから、誰かに あだ名 というのを付けられたことは無かった。そもそも 紫月 と名前で呼ばれることだって少なかったし。
「紫月は今日から しづ ね!」
「違うよ!?しづしづだよ?!!」
「どっちでもいいだろ…」
俺を挟んで並ぶ霜月くんと神井くんの言い合いに、呆れたように口を挟む越前くん。おそらくこれが今まで一緒にいたメンバーで、その中に俺というのが今日は入っている。
「ふふ」
「?!!!」
「え、しづ笑った?!!」
「笑ったな…」
小さな声だったのに、彼らは驚いたようにこちらを向き
「見逃した〜!!!」 とあからさまに落ち込むものだからまた少しだけ笑ってしまった。
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