番犬注意

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 俺は組織の命令で、ある遺伝子工学の研究者が作った私設研究所に盗みに入ることになった。  その研究所は人が住まなくなった村の一部を買い取り高い柵と生垣で囲まれていた。  研究者が一人の研究所なのにやたらと大きい建物。近寄ると怪しまれるので 研究所の様子を伺うために隣の山に拠点を置いた。  数週間観察して分かったのだが、敷地内には研究者とその妻と妻の母親、研究者の両親しか住んでいない。研究所とは別にある広い家に住んでいる。  週に三回か四回、車で出かけている。食料品や日用雑貨などを買いに行ったり病院へ行ったりしてるようだ。  不規則に研究に使うと思われる物品を業者が運んでいる。  警備会社と契約しているようで、門柱の表札に警備会社のステッカーが貼られている。意味があるのかと思う。その隣には「番犬注意」のステッカーも貼られていた。  でも笑ってしまう。その番犬とは妻が飼っているチワワのことだ。一日二回 妻が散歩をさせている。それ以外に犬を見たことはない。あんなちっちゃいのが番犬。  ☆   ☆   ☆  業者の助手に化け研究所に入り込むことに成功した。目的の研究室を目指す。途中で気配を感じ振り返ろうとした途端に何者かに押し倒される。背中の感触は獣の足のようだった。こいつが番犬か。あのチワワの他にもいたのか。         起き上がりたいが恐怖を感じて動けない。 「こんなのが入り込んでいたぞ。注意しろ」  知らない声が聞こえる。 「いや、君がいるから大丈夫だと思って」  小声で答えるのはここの研究者だ。  薄れて行く意識の中で俺は思った。  何をどう研究したらこんな生物が生まれるのか。  人語を喋る三頭犬。地獄の番犬。
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