真夏の死後の冬の手紙

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蒼は白い綿のシャツに、紺色のスラックスの装いだった。 細身の身体にピッタリと似合っている。立ち上がると、脚の長さがすらりと際立っていた。 彼は華奢で細過ぎる蘇芳とは違い、筋肉が均等についていて、健全な肉体を持つ青年に成長する事が約束されているような体格をしている。 それに比べると蘇芳は、大人になるま生きていられるか解らない、とまで言われていて貧弱だ。それがかえって、儚い水や草花の精の様なこの世の者ではないような美しさを称えていて、彼は得体の知れない魅力があって、人を惹きつけた。 蘇芳は今朝、立ち上がるまで回復したのか、誠が彼の事を考えていると、間もなく二階へ上がってきた。 「兄さん、おはよう。熱が下がったみたいだ」 彼も今朝は和装ではなく、濃紺のシャツに黒の半ズボン姿であった。白い腕と脚が、やたらと浮き出て見える。 「おはよう。それは良かった」 蒼は弟の姿を見て頷いた。 「やあ、おはよう。元気そうだね」 誠も蘇芳にぎこちなく話しかけたが、蘇芳は誠に鋭い一瞥をくれただけだった。 誠はやはり、彼が苦手だった。蘇芳も誠の事を嫌悪しているに違いない。 誠も真っ青なTシャツに白い麻のズボンに着替えた。そうしている間に、蘇芳は誠の存在を無視して、兄と話し込んでいる。 内容は蘇芳の持病の事だった。 「念の為に、病院へ行って来いよ」 「もう大丈夫だよ。熱も下がったみたいだし」 蘇芳は兄に向けて、ニコリて微笑む。誠の事など、眼中にないかのように。 その時、誠は初めて自分が蘇芳に嫉妬している事に気付いた。 蒼は誠にすまなそうに、一瞥をくれた。
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