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Worm Moon 1
少し前まで防寒着が手放せなかったが、ここ数日は日中の暖かさでついつい薄着になる。
特に子供はそうだ。体温の高さに加え、身体いっぱいで遊ぶ為、あっという間にTシャツ一枚になった。止める間もなく、年明けに仲間入りしたばかりの鉢植えに水やりも始めたようだ。
「キレイに咲いてね」
水をあげ過ぎると枯れてしまいますよ、と教えられてからは一鉢毎に水遣りよりも声掛けの方が多くなった。
草花に優しい言葉を掛けると、綺麗な花を咲かせると信じている様で、その様子はいつでも心を和ませてくれる。
今年の秋には、母親が一番好きだったと云うチューリップの球根を買ってやらなければ。春に咲くには秋に植えないといけないと知った時の、あの残念そうな顔は忘れられない。
脳内で半年先の予定を書き留めている内に、子供はいつの間にか水遊びを始めていた。柄杓で水を掬い、宙に振り撒き虹を作りキャッキャッと笑っている。
その様子を室内から見ていた犬神京介は、微笑ましく見守りながら、今夜の夕飯は体を温める食事にしようと考えていた。
肉団子と野菜のスープが良いか、それとも豚汁か。あぁ、昨日ハンバーグを作りたいと言っていたから豚汁の方が良いか。いや、一匹丸ごと貰った鯛があったから、ハンバーグに潮汁か。きっと鱗取りも楽しんでやりたがるだろう。
「っくしゅんっ」
「雅?」
それはとても小さなくしゃみだったが、耳の敏い京介には十分過ぎる音量だった。名を呼ぶなり瞬時に庭に出ると雅を抱き抱えた。
「こんな薄着で遊んでいるからだ」
「京介?大丈夫だよ、だって⋯⋯くしゅんっ」
「まだ水遊びには早すぎるだろう?」
続けてくしゃみが出てしまい、雅は諦めた。こうなったらどんなに否定しようが京介はお世話モードに入ってしまう。
「寒くはないか?」
「うん⋯⋯大丈夫」
雅を抱えたまま後ろ手でガラス戸を閉めると、リビングを横切り寝室へ向かった。
シンプルに設えられた寝室にはキングサイズのベッドと、ローテーブルがあるのみだ。
長身の京介と就学前の雅が一緒に寝ても余りあるベッドは、雅と暮らす様になってすぐ、自分が使っていて寝心地が良いからと、長年の友から贈られた内の一つだった。
ベッドにそっと雅を降ろすと、その額に京介は掌を乗せた。
「熱はないようだな」
「風邪じゃないもん」
「陵先生に連絡するぞ」
「え!大丈夫だってば」
掛けられた上掛けを押し退けて雅が起き上がる。京介の額に自らの額を押し当て、静止した。
「ほらね、熱、ないでしょ?」
「今はな」
「陵先生、忙しいんだよ?京介も知ってるでしょ?」
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