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Worm Moon 5
京介に、鼓動よりもゆっくりしたテンポで頭をポンポンと撫でられている内、雅は次第に瞼が重くなってきていた。
「少し眠るといい」
空いている片方の掌で雅の目元を覆うと、雅はその熱に安堵したのかすぐに寝入った。
いつもより呼吸数が多い。まだ長くはない雅との生活だが、体調を崩した時の症状だと経験している。もしかすると今晩にでも発熱するかも知れない。今のうちに熱を下げる準備をしておこうと、名残惜しそうに雅から離れた。
結局その夜、雅は夕飯にと作られた消化の良いうどんを食べ切る事が出来なかった。箸を持ったまま眠ってしまったのだ。起こさぬ様と気を付けながら雅を寝室に連れて行き寝かせると、京介はまだぎこちない手付きでスマホを操作し始めた。
雅と暮らす迄、ほぼ受電しか機能していなかったスマホは、今や神威達との連絡手段として大いに機能している。が、簡単な文字入力ならたどたどしくも利用出来るものの、長文等は音声入力に頼らざるを得ない。
『雅が体調を崩したが、心配には及ばない。朝になっても良くならないようなら受診させたいがどうだろうか?』
神威と柊吾、陵で構成されたグループチャットに、京介の言葉が文字起こしされるや否や、返信が嵐の如く入ってきた。
『大丈夫ですか?今からでもお越し下さっても構いませんが』
『ちッ!オレサマはすぐには出れねェが、伊織に手配させてすぐに雅の好物持って行かせるわ』
『京介くん?俺は今から事務所出れるけれど、付き添いしようか?』
陵は夜間診療を、神威は見舞いの品を、柊吾は付き添いを提案してきた。
『有難いが、雅が恐縮するからな。様子見で頼みたい』
またもや文字起こしと同時に返信が届く。
『京介さん、ビデオ通話に切り替えて頂けますか?雅くんの様子を見たいので』
京介が三人に対して感心している事の一つに、入力の素早さがある。以前観たSF映画の様に、指先から更に神経が現れ、入力しているのではないかと勘ぐる位だ。
『分かった』
素早く承諾するとビデオ通話を開始し雅を映すと、陵が安堵の声を漏らした。
「顔色は大丈夫そうですね。ひとまず安心しました」
「熱は高いのかい?」
すぐに通話に加わった柊吾が尋ねた。
「平熱より少しな。昼間に水遊びをしたから冷えたんだろう」
「水遊び!まだ寒かっただろうに」
「庭で遊んだ流れでな。遊んでいる内に薄着になって、止める間もなく水遊びに発展していた」
その光景が容易に浮かんだ陵と柊吾はククッと笑う。
「雅くんらしいわ」
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