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Worm Moon 7
雅が幼く、また少年であるが故に告げられない真実は、時期を見誤らない様に京介が慎重を期している事を神威も重々承知している。
それでも折に触れて口をついてしまう。
その事が神威の心を抉っている事実を痛い程知っている伊織は、歯痒い思いで見る事しか出来ない。
京介に誓った忠誠に偽りはない。そこにスパイスの様に別の感情が乗っているだけだ。
雅自身が性別や年齢を超えて京介の番だと自覚するまで、神威と伊織の葛藤は続くのだろう。
京介は神威の想いは理解していないものの、慎重になり過ぎている自分を心配してくれている事は十二分に理解していた。
京介とて性衝動がない訳ではない。寧ろ必死で堪えているのだ。気を抜くと手を出してしまいそうで、日々獣と人間の狭間でせめぎあっている。
今もそうだ。熱に浮かされている雅は、情事中を連想させる程に扇情的だ。
赤く染まる頬も、涙目も、時折漏れる喘ぎ声も、京介の劣情を増長させる一方だ。
もうこのまま抱いてしまえ、と獣が囁く。
無邪気な笑顔と何事にも真剣に取り組む姿勢、感情を分け合う優しさが。碧衣に託された約束が。何より雅を溺愛する京介の心に降り積もる。
雅を育て上げると宣言しただろう、と人間の部分が律する。
獣化しているせいで天秤は獣の方へ傾き、欲望が抑え切れなくなりそうだったが、すんでのところで堪え切る。
深く息を整え、爪で破かぬよう加減しながら掛け布団を捲り雅の隣へ身を滑らせると、四肢の間に雅を抱き抱えた。
小さな身体の中では絶えず熱を産生しているようで、譫言の様に寒さを訴え続けている。
陵によると、悪寒戦慄というらしい。手足が冷たくなっている場合には身体を温めるよう言われている。
雅が知る事はないが、発熱した時には本来の姿に戻って雅を看病してきたのだ。
京介は自らのマズルを雅の額に当て、意識してゆっくりと呼吸した。いつもより速い雅の心拍を落ち着かせるようにゆっくりと。
時折、雅の口から意味を成さない言葉が漏れる。
夢でも見ているのだろうか。熱に浮かされた夢など碌なものではないだろう。いっそ夢の中に潜り込んで、雅を苦しめるものから守る事が出来ればと願う。
番を得る事とは、神格を持つ京介でさえもただの独占欲の塊に堕とす事かと自嘲した。
幾千幾万の番達を見てきたが、想像以上に自分が矮小な存在になったと感じている。
雅の世界には自分だけが存在すればいい。誰の目にも触れさせず、雅と二人だけの世界を作ってしまおうか。
否。その世界は砂上の楼閣だ。元々雅を家族同様に見守ってきた蒼月夫妻を始め、今や神威や柊吾、陵に伊織までもが雅を慈しんでいる。
素直で愛情深い雅を形成しているのは彼らのお陰でもある。
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