五月

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五月

 二学年に上がると、私はA子ちゃんと同じ組になりました。  嬉しいと同時に、彼女とは適度な距離を取るよう心がけておりました。なにせ私は高等部一の問題児で、先輩からはもちろん同学年の生徒からも嫌われておりましたから。  それに比べてA子ちゃんは世渡り上手な子でした。ハキハキと話すわりに人の話もよく聞き、周りをよく笑わせていたように思います。  はじめは「東北から田舎者が来る」なんて言っていた子たちも、すっかりA子ちゃんにひっついて離れません。  誰かが彼女に触れているのを目にする度、私の胸の中では黒いものが蠢きます。それは棘のようにチクチクしている日もあれば、沼のようにドロドロしている日もありました。私は日々その黒いものを飼い馴らすのに悪戦苦闘するのです。  その日もA子ちゃんの腕に縋りつく子がおりました。B子ちゃんです。  あまり顔は思い出せませんが、身体がめっぽう小さかったのを覚えています。学年で一番背の高いA子ちゃんの膝の上に、彼女はよく腰かけておりました。それが身体の小さい自分の特権かのようにふんぞり返っているのです。  性格の悪いリスのような子だと内心馬鹿にすることで、私は心の平穏を保っていたのです。  彼女は当初誰よりもA子ちゃんのことを嫌っておりました。周りの生徒にA子ちゃんと話さないよう指示を出したり、もっと直接的なこともしていたようです。  しかし段々とA子ちゃんが先生方や先輩方から可愛がられるようになってからは、手の平を返すようにすり寄って来たのです。 「田舎も都会も、やることは変わらないんだね」  彼女が悲しそうに呟いたのを覚えています。  そういった過去の積み重ねが今日の彼女を形作っているとしたら、そしてそこに私が魅了されたとしたら。  それはどんなに残酷かと、思えてなりませんでした。
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