デリバリービーウィッチ1

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デリバリービーウィッチ1

 ボロアパートの、とある一室。  俺の名前は深海俊哉(フカミトシヤ)。とあるトレーディングカードのプロゲーマーとして稼いだ賞金を生活費として生業をたてている。俺はその界隈ではそれなり強いし、それなりに稼いでるんだけど。だけど……。  俺は散財癖も凄くて、興味があるものには容赦なく金を突っ込む傾向にあるらしく、気が付けば毎月火の車になってるんだよなぁ。  今はカードのデッキ構成中。  この前新しく禁止カードが追加されたから、それも加味して組み直さないとな。  絨毯の上にあぐらをかいて、眼鏡をかけ直して机の上に並べた戦友達を仕分けしていると。  ピンポーン♪  玄関のインターホンが鳴る。 「はーい」  俺の部屋の狭さなら、ある程度離れていても玄関にまで声が届く。 『リョウタと申しま〜す』  あ、来た……。今日来るとは聞いてたけど。 「ぁ、はい。鍵開いてるんで、どうぞ〜」  ホントに男の声だ。マジかよ。  あいつら本当に男のデリヘル頼みやがったのか。  酒の付き合いで賭け麻雀やってたら、俺完全にATM状態でボロ負けもいいとこでさ。ついでに罰ゲームでデリヘルって言うからどんなBBAが来るのかと思いきや。 『おい、見ろよコレ。男のデリヘルだって!』 『マジかよ!んじゃ、ふーやの罰ゲームここに決定な〜〜!!』  ガチャ。  ……パタン。  あ、スリッパとか置いといてあげればよかったかな……。    とかそんな事を考えてるうちに。俺のワンルームの玄関をいとも容易く知らない男が入ってくる。 「失礼します」  声は低めだ。でも丁寧さがある。  靴を脱いで、揃え直してこちらを向く。  派遣された男は俺の顔を認知すると、俺めがけてスタスタとモデルのように一直線に歩いてきて、あぐらをかいてる俺の目線に合うように正座して三つ指立てて挨拶をしてきた。 「デリバリーフロウから派遣されたリョウタです。本日は御指名ありがとうございます」  その男は、俺の汚いボロアパートの屋内にはとても不釣り合いな眩しいオーラを放つ、とても綺麗な見た目をしていて。 「よろしく、お願いします……あ、えっと。机片しますね」  思わずこちらが敬語を使いたくなるような気品に溢れた佇まいをしていた。    サラサラの金髪。  キリッとした眉。  クリッとしていて大きいながらも吊り上がった眼。  艶ぼったい濡れた唇。  着てるものはシャツに上着にジーンズと、なんかその辺の大学生が来てそうな見た目……だけど、モノはイイヤツなんだろうなきっと。  いわゆるイケメンってやつだ。それもそんじょそこらのイケメンじゃない、モデルとかテレビに出てきそうなレベルのやつ。  カードの乗った机を壁際にずらして、俺もつい目の前のイケメンに合わせて正座をする。 「お客さまは、なんて呼べばいいですか?」 「は、ぁえっと〜〜。あ、初めまして、深海っていいます」  テンパった俺は、ついついお見合いのような自己紹介をしてしまった。 「ふふっ、初めまして。俺はリョウタっていいます」  こんな顔して「俺」呼びなんだ……なんか意外。 「なんだかお見合いみたいですね」 「あ〜〜なんかこっちこそ、すいません……」  リョウタさんは見た目に反して腰が低かった。 「深海さんって呼べばいいですか?それとも下の名前がいいですか?」 「あ、いや。みんなからは『ふーや』って呼ばれてるからそっちで」 「ふーやさん」 「さんもなしで」 「ふーや」 「うん。それでいいっす……あ、敬語もいいんで」 「分かった」  にこやかな笑顔でこちらの要求に応じてくれるのは、こういう仕事だからなんだろうな。 「じゃあ、早速お風呂に──」  きた。 「あ〜〜、それなんだけどもさ」 「はい?」  ここはちゃんと断らないとだ。 「せっかく来てもらって悪いんだけど、今回俺の知り合いが悪ノリしてリョウタさんとこに電話したみたいでさ……その、俺自体は全く乗り気じゃないっていうか〜〜」  歯切れの悪い俺。 「そうだったんですね……」  リョウタさんが物悲しそうに伏せ目がちな顔をしていて。  それがその──すごくえっちで。  色気を纏っていて。  男の人に『人妻』って言っていいもんなのかな。 「あっ、勿論お金はちゃんと払うから!!そこは心配しなくていいからね!?」 「はぁ……」 「ん?」  リョウタさんがずっと一点を見つめていて。その視線の先を辿ると……元気な俺の息子が少しテントを張っていた。 「はぇ!?えっ、なんで、俺……!?」    ——あ。  さっきの表情だ!  あの伏せ目がちなリョウタさんの顔に反応しちゃったんだ。 「よかった。俺で勃たないってわけじゃなくて」 「いやいやそれは絶対ないですよ。リョウタさん色気すごいですもん」 「ふふっ、ありがと。ふーや」  名前呼び、結構クるな。 「どういたしまして……?」  リョウタさんはくすくすと笑いながら、今度は上目遣いで俺のことをじっと見てきた。 「ふーや」  ん? 「なに?」 「お風呂。──……はいろ?」  首をコテンとさせて、俺のことを凝視する。  何この人、めちゃカワなんだけど。 「────…………はぃ……」  こんな可愛い人を前にして、断れるやつがいたら誰か教えてくれ。
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