第12話 ぼっち

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第12話 ぼっち

「だから包帯巻くのとか上手だったのかな」 「そこはよく知らない。お医者さんが包帯巻くかなぁ」 「確かに。でもなんでだろ」  優季は勘繰った。お医者さんって、やっぱ、セレブっぽいから? もしそうなら徹底してる。 「もしやセレブになってタワマンとかに住みたいのかな」 「うーん、どうなんだろう」 「え?」  菖は黙り込んだ。優季は菖の表情を伺う。 「優季の感想が自然なんだけど、良く判んないんだよね。言動が一致しないと言うか。捻挫の手当てしてくれた時、あの子、本当にテキパキやって、それで真剣に謝ってたし」 「相手が菖だからじゃない?」 「なんで?」 「だって菖ってクラスの中心にいるし」 「そんなの思った事も無いけど」 「そこがいいのよ。何も言わなくても友だちが集まって来るって」 「そう? でも美月はそんな感じじゃない気がするのよ。あの子、優季に突っかかる時は上から目線なんだけど、結局帰りはぼっちでさ、帰りがけに図書館で勉強してたりするんだよね」 「図書館で勉強?」  美月が図書館? 腑に落ちない優季の表情を見て、更に菖が言った。 「私は品川駅まで歩いてるじゃない。そうしたらある日ね、前を美月が歩いてたのよ。あの立派な背中は美月だーって追いつこうとしたらさ、あの子、道を渡らないで真っすぐ、京急の駅の方へ行くんだよね。家とは真逆の方向」  ふむ。どこだか全然判らんけど、ここで話の腰は折れない。優季はじっと耳を傾けた。 「優季は知らないと思うけどさ、大きな橋を渡ってずーっと行くと、京急の新馬場(しんばんば)駅に出るの。10分位かな。私、入学したての頃にあちこち探検してみたのよ。京急で来てる子は結構そっちから乗るんだよね。でも美月は月島だから、なんでわざわざって思って尾行してみたの」 「尾行!?」 「そ。ワクワクでしょ。アーニャみたいに」  菖は可愛く笑った。あはは、菖もアニメ見るんだ。 「そしたらさ、駅の手前のおっきなビルに入って行ってさ、予備校かなって思ったら図書館だったの。自習席も多くてきれいな場所。それでこっそり覗いてみたらさ、ちゃんと勉強してたのよ」 「へぇ」 「確かにウチの高校から真面目に医学部目指すなら結構頑張らなきゃだから、美月、本気なんだーって思ったの。まだ入学してすぐなのに、いきなりフルスロットルだからね」 「へぇー」  優季は益々判らなくなった。だったら普通に『一緒に勉強しよう』って言えばいいのに。  優季の思いが顔に出たのか、菖は冷めた紅茶をすすってから口を開いた。 「美月、本当は優季と近づいて一緒に勉強したいと思ってる筈なんだけど、なんでだか口からは違うことが出ちゃうんだよねー。もうちょっと素直になればいいのに、何に(こだわ)ってんだか…。優季は性格いいから理解できないかもだけど、ああいう子、いるのよ。見てるとめっちゃ腹立つけど、そのうち突っ張りの仮面も落ちるよ」  菖が言う通り、優季には理解できない。タワマンに住んでるって言うだけで美月は何かこだわりを持つのだろうか。 「美月って友だちを作るのが苦手なのかも知れない。だから無理に話題を作ろうとしてあんな風に突っ張ってるのかもね。タワマンが丁度いいネタだったんじゃない? でもさ、そんなんじゃ本当の友だちは出来ないし、今一緒にいる子たちも、そのうち愛想尽かして離れてっちゃうよ。そう思うとなんか可哀想にもなって、私は時々話に付き合っている次第です」  菖は微笑んで首を傾げた。みんなぼっちなんだ。それを何とかしたくて足掻いたり、嘘ついたり突っ張ったり。そうやって友だち作るって、それは本当の友だちになるのだろうか。優季も心の中で首を傾げた。 「じゃあ、今度声を掛けられたら、あたしもちゃんとお付き合いしてみる」  優季の声は心なしか、か細かった。
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