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第13話 だっぺ
優季が菖の自宅に招かれてから丁度一週間後、昼休みに美月が優季の所へやって来た。
「多摩さん、今日は放課後、予定ある?」
あの日の美月の言葉はまだ忘れていない。いきなりの誘いに優季は聊か緊張した。
「ううん、特にないけど」
「じゃあさ、帰りにちょっと寄り道しない? 期末テスト問題の予想大会するのよ」
「い、いいけど…」
「初めてねぇ、下界へ降りて来て頂けるの。それでさ、私も菖を見習って『優季』って呼んでいい? 勿論、私のことは美月でいいよ。呼び捨て御免制度に基づいて」
「呼び捨て御免制度?」
「そう。ウチらってほら、3年間同じクラスなんだから堅苦しいのやめようよって、何人かで話してんだ。菖も賛成だって」
「うん、いいけど」
優季は戸惑いながら頷いた。
「じゃ、授業終わったら迎えに来るからさ。リムジンって訳には行かないけど。あ、それから菖も来るから」
本気か皮肉か判らない言葉を残して美月は去って行く。菖も参加すると聞いて優季は幾分気が楽になった。
+++
放課後に美月を始めとする有志が集まったのは、品川駅横の商業ビルにあるフードコート。ファーストフード店もあるので、女子高生の財布でも何とかなる。それ故、全員が揃ってファーストフードのドリンクとナゲットやらパイをテーブルに並べている。仕切り役の美月は最初からハイだった。
「今日はさ、優季が初参加。お住まいとは方向違いなんだけど来てくれました! だから今日はさ、テスト勉強で解んないところを優季に聞けるという特権付き。勿論、前みたいに菖にも聞けるよ。学年ベストテンが二人も揃うってなかなかないことよ。だから自習したい人は自由にやって頂戴」
自習? テスト問題予想大会とか言ってなかったっけ? 優季は不思議に思い、菖から聞いた、美月が図書館に通っている話を思い返した。
「ね、美月。自習するんだったらいつも美月が勉強してる図書館の方が良かったんじゃないの?」
美月は突然固まって、激しく瞬きをした。
「そ、そんなの知らないよ。大体さ、私たち3ヶ月前に入試終わったところなのよ。そんなに必死にやる訳ないじゃん。それじゃまるで落ちこぼれだっぺ」
だっぺ?
一同はハイな美月の早口にキョトンとする。慌てて美月は付け加えた。
「あー、テレビ見過ぎた。大体さぁ、方言そのまんまでお笑いやるなよーって感じじゃない?」
そして一同をさっと見回す。
「そうは聞こえなかったけど。随分自然なイントネーションだったし」
端っこに座っていた妹尾 梨華(せのお りか)が言い放った。美月は慌てる。梨華は大森から通う、テスト成績も20位以内に入る優秀でクールな少女だ。
「つ、釣られたのよ優季に。優季も時々言ってるよね。埼玉でも『ジュース飲むっペ』とか言うもんね」
予想外の振られ方に優季も慌てる。
「え? いや、言わないけど…」
その瞬間、美月の顔に走査線のような翳が走り、輪郭がブレるのが見えた。優季はすかさず修正した。
「いや、言うかな? 言うだっぺ?」
美月の顔がホッと戻る。
「ほらねー。まあそれはいいとしてさ、ほら、林先生の倫理、めっちゃヤバいじゃん。只でさえ解んない科目なのにさ、ボソボソ喋られたらどこやってるかも判んないよねー」
なお走り気味の自分を意識しながら、美月は優季から目を逸らせた。実際は『言うだっぺ』なんて言わない。『言うべ』なのだ。あれは優季の機転? 配慮? 私に恥をかかせないように庇ってくれた?
梨華は白けたようにそっぽを向き、菖は美月の表情の変化を読み取っていた。
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