第4話 妬みと甘み

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第4話 妬みと甘み

 あれ? あの子、同じクラスの、確か多摩さんだ…。  美月は下校途中の電車の中で、自分と同じ制服を見つけた。向こう向きなので顔は確認出来ないが、後ろ姿は見覚えがある。確か、多摩優季さん。入学早々のテストで学年5番に入った子で、部活は入っていないっぽいが、体育の授業では目立っていた。勉強も運動も出来るし、小さく整った顔立ちとスリムな体形は美月が持っていないものばかりだ。  どこに住んでいるのだろう。美月は乗り降りする乗客の向こうの同級生をマークし続けた。美月は途中で乗換になるのでそれ以上の尾行は難しいが、幸いその同級生は乗換駅の手前の彩雲駅で降りた。タワマンが並ぶ新しい街だ。  もしかしてタワマン住まい? 本当にタワマンみたいにスリムな子がタワマンに住んでいるんだ。ホームを歩き、階段に吸い込まれるまで優季を電車の窓から見送った美月は小さく溜息をついた。 +++  地下鉄を降りた美月は商店街に続くインターロッキング舗装の道を歩く。古い町と言ってもマンションが並んでいて、やはり東京である。数百メートル歩くと、ようやくもんじゃ焼きを始めとする店舗が軒を並べる商店街となる。美月の伯父伯母が営む化粧品店はそんな中にあった。ドラッグストアが見当たらないこの近辺では貴重な存在らしく、旧来の客に加え、マンションの住民も来店する。世の中に女子がいる以上、この商売は廃れない。それどころか、最近は男性用も売り上げを伸ばしているそうだ。  美月を迎え入れてくれた伯父は、父が言ったように愛想が良い方ではなかったが、それでも姪っ子みたいな美月には優しかった。美月が扉を開けると、丁度会計中だった伯母・小出 由香(こいで ゆか)が気付いた。 「美月ちゃん、おかえりー」 「ただいま。です」 「美月ちゃん、お友達、出来た?」 「え、うん。まあまあ」  商品を並べていた伯父の小出 徹(こいで とおる)が気付いて振り返った。指に包帯がきれいに巻かれている。 「んなもん、すぐに出来るわな。ババアが心配するこっちゃねぇ」  主導権を取りたがった伯父を伯母が睨みつけた。 「あんたはレディの人づきあいの難しさを何にも解ってないのよ。本音はなかなか言わないし、それに今はほら、クラスの中でカーストってあるんでしょ? 大変よねえ、仲良しグループ同士の諍いは昔っからあったけどさあ」 「大変なのは男だって一緒だろが、一歩外に出りゃあ七人の敵がいるってなぁ…」 「何言ってんだい。自分で包帯も巻けやしないくせに、どの口が七人の敵だよっ」  伯母の口撃に伯父は対抗し切れない。会計を済ませた客が笑いながら出て行った。美月はちょっと恥ずかしい。 「お部屋に上がります」 「うん、おやつ勝手に食べてね。食卓に置いてあるから」 「有難うございます」  美月は逃げるように階段を上がる。伯父さん、指に怪我でもしたのかな。伯母さんにぶうぶう言われながら包帯を巻かれている姿が目に見えるようだ。上手に巻いてあったし。しかしながら伯母さんへの『小食イメージ植え付け作戦』は今のところ上手く行っていない。一度、こっそりと切り出してみたら、 『何言ってんのよ、若い子は食べるものよ。そのうち放っておいても痩せちゃうから』 と軽くあしらわれ、相変わらず2階の食卓には和菓子満載の竹籠(バスケット)がいつも置かれている。 「あーあ、ダイエットはー 明日から…」  美月は呟いて、籠からどら焼きを一つ摘まみ上げた。
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