一日目の四月

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「せめて連絡とかしてよ」 「連絡したら避けられるかもしれないし。僕ら、別れた時にまったく未練のないようにしたわけだし」 そうだった。しかもそれを言い出したのは私。なんとか静が連絡しようとしたって私は無視したかもしれない。だからこうして予告なく家まで来たのだろう。 「ちょっと待て、静は私達が別れた日のことは覚えてんの?」 「うん。けどその先からがさっぱり。どこかの大学行ったとか、親戚の会社に就職したとか親に聞かされたけどまったく現実味がない。ちなみに彼女を名乗る人が十人くらい現れた」 「私の後に十人も?」 「真偽はわからないよ。面白がって名乗り出ただけの子もいるだろうから」 静の今の状況はあまりよくないのだろう。親が教えてくれた情報すら信じられない。周りには静を利用しようとする人もいて騙しに来るかもしれない。だから私を頼った。静の欠けた記憶について何も知らない私を。 「人選間違えてる。もっとあんたの事を知ってる人を頼るべきでしょ」 「けど僕が覚えているのは望と別れるまでの記憶だから。多分そこが強烈だったから、そこまでが残ってしまったんじゃないかな」 「はいはい、告白しといて振って申し訳ありませんでした」 「責めてないよ」 静はきっと何不自由なく育ってきたから、私みたいな人間に振り回されるのに慣れていないのだろう。だから私との記憶が強烈で残ってしまった。 なにせ私はスペックだけで静と付き合いを申し込み、色々あって別れた。静に欠点があったわけではない。私が思うようにならなかったのが原因だ。とても身勝手な交際だった。 「……まぁ上がりなよ。記憶が私と別れるまでだというのなら、その辺りが本当に欠けていないかは確認できる」 私は昔振った時のように、今はきっぱり断るべきかもしれない。でもさすがにあの別れが静にとって最後に残った記憶というのは可哀想だし責任を感じる。本当に交際時の事を覚えているのか確認できるのは私くらいだ。 話くらいはしてもいい。 「ありがとう」 静は幼い笑顔を見せた。それが高校生のときのものと重なった。
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