一日目の四月

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「僕達が付き合い出したのは高2の4月。それまで一緒のクラスだったけど、とくに大きな接点はなかった。委員長タイプだった望は何かと僕の世話をやいてくれたし、お兄さんが有名だったからよく知ってる」 「静は、今で言うカースト一軍の中心にいたよね」 「カースト一軍って?」 「あー……昔はそういう言葉はまだそこまで流行ってなかったっけ。要は『クラスででかい声で喋ってもいい人』」 「にぎやかとはいえ、そんな人達じゃなかったけどなぁ。僕もこんな名前だし」 出た、カーストでいい思いした人程その自覚のないパターン。金持ち顔よし人当たり良しの静がクラスの中心にならないはずがなかった。誰だって静とお近付きになりたかった。ぽやぽやした静は何も話さなくたってその場の主導権を握っていたように思える。 ちなみに私は当時学級委員をするタイプだったので、ノートを見せたり課題の提出期限をちょっとだけ遅らせるような便利な存在として一軍と関わっていた。 「4月に望から告白された……けど、なんでそんな事するかはわからなかった。望は僕の事は全然好きそうに見えなかったから」 「いや、そんなの別れたときを知ってるからこその感想でしょ。付き合った当時の感想ではないよ。ちゃんと時系列を追って話して」 「4月からそう思っていたよ、僕は」 とくにはったりだとは思えないような真剣な顔つき。静が言うならそうだろうなと思えてしまう。 彼は最初から私に気持ちがないことなんてわかっていたんだ。 「でも面白そうだったから付き合っちゃった」 「普通に断ってほしかったなぁ」 私の計画では静に告白して、ここで振られたって構わなかった。なのに空気を読まずこのお坊ちゃんは付き合うと言い出したのだった。 「望は付き合った翌日にお弁当作ってくれたよね。あれ、嬉しかったしおいしかった。見た目はともかく」 「しょうがないでしょ。今まで作った事ないし、本見ただけなんだから。それに一回で懲りたよ」 当時の私は少しでも彼氏彼女感を出すためにお弁当を作ったりした。少女漫画的な行動というのはそのあたりを指すのだろう。 料理はレシピがあれば作れるが手慣れてはいない私は、おいしいけど全体的に茶色い、見た目が残念なお弁当しか作れなかった。当時彼女として完璧を目指していた私には不出来な弁当だから渡さないという選択肢もあった。でも兄さんに味見を頼んであの人が私に激甘なのを忘れて、つい気になって渡してしまったのだ。
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