一日目の四月

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「それから5日後に、今度は僕がお弁当を作った」 「あの見た目良くて品数多くておいしいやつね。嫌味かと思った」 「嬉しかった事のお返しに嬉しかった事をするのは当然だよ」 予想していた以上に静は手作りお弁当が嬉しかったらしい。同じ事でお返しをしてくれた。私的には倍返しだけど。 でもなんか変だ。静のお母さんは家事が得意でよくお弁当を作ってた、静を好きな女の子だっていて、その子達がなにか食べ物をあげたことだってあるだろう。なのにこんなにも嬉しがるなんて。 「まあ、そんな爽やかで幸せな思い出も、望のステータスのためだとそのうちにわかるわけだけど」 「ごめんって。何度も謝ったし許してくれたじゃん」 「付き合った一年が楽しかったから許しているだけで、これから先しょっちゅう思い出しては悲しくなったり悔しくなったりすると思うなぁ。実際そうだったかもなぁ」 静は嫌味にため息をつく。静の言う『これから先』は未来の話じゃなくてすでに起きたことなのだろう。実際大人の静が私にふりまわされたりしないだろうけど。それでもやっぱり静は嫌な気持ちになったに違いない。 私がステータスのために告白したからだ。 『兄が完璧だからそれに負けないように完璧になろうとしたけど、なれそうにないので完璧な彼氏を捕まえることにしました』なんて。 そんな理由で私は静に告白した。 バカだとしかいいようがない。静だって迷惑をかけた。だから黒歴史だ。 「望は今でもお兄さんに張り合うために優等生してるの?」 「まさか。とっくに諦めているよ。ただ、静が前に『勉強とかのわかりやすい評価でお兄さんと張り合うんじゃなくて、何か特殊な技術を磨いてそれで張り合えばいいんじゃない? 例えば絵とか』って言ったから。だから私は漫画家になった」 静と付き合っていた時の私は委員長タイプだったけど、それは兄に近付こうと無理していただけ。根はかなり怠惰な人間だ。 私が中学生の頃、兄は難関大にあっさり受かった。それで自分達の違いに気がついてしまった。 兄は遺伝子のせいか本人の努力のせいかすごい事になっている。なのに私は成績は良かったり悪かったり、とくになんの特技もない。これから先、一生『似てないよね。まぁそれも仕方ないか、血の繋がりがないもんね』と言われ続けてしまう。実際高校でもかなり教師達に言われていた。 なのでそこから兄のような完璧を目指し委員長タイプとなり、しかしこのままでは学力が足りないと判断して完璧な彼氏作りに移行した。 それも交際中静に悟られ断念して漫画家になって、今は怠惰な性格もあって漫画家としてなんとかやっている。 「望もお兄さんに張り合うことないのに。人は違って当然だし、血の繋がりだってないわけだし……」 「皆そう言う。似てないのだって私の出来が悪いのだって血の繋がりがないからだって慰めるつもりで。言われた私達が否定されたような気になるのも知らないで」 カッと頭に血が上る。それで一気に喋ってしまった。昔の事とはいえ、ここだけは冷静に語れなかった。静も引いているようだ。
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