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「なあ、青田んちの犬の名前ってなんだったっけ?」
「青田んちの犬の名前?」
「青田、犬なんか飼ってなかったろ?」
「は? 飼ってただろ?」
「中学のとき、部活帰りに、青田んち寄ったとき、犬が俺らに、飛びかかってきてたろ?」
「いや、覚えてない。覚えてないっていうか、そんな記憶はない」
「お前、大丈夫かよ? 犬の名前を覚えてない俺が言うのもなんだけど、犬がいたことさえ覚えてないってヤバいぜお前」
「いやいや、お前こそ誰か別のやつと勘違いしてるんじゃねーのか? 青田んちには、犬なんかいなかったぞ」
「いやいやいや、犬は絶対にいた。青田んちには犬がいたって。お前が覚えてないだけだって」
「じゃあ名前は? 覚えてないんだろ?」
「名前は、名前は覚えてないけれど、犬はいた」
「ああ、チワワだ、チワワ。可愛らしいチワワが青田んちにはいたんだよ」
「チワワ?」
「チワワだよチワワ。青田んちにはチワワがいたんだよ」
「いなかったけどな……」
「まあ、お前がいたって言うなら、いたってことでいいんじゃない? 名前も分からない犬が青田んちには、いたんだろうな〜」
「なんだよそのバカにした感じ?」
「バカにはしてないよ」
「別に、お前がいたって思っているならそれでいいんじゃないと思ったたげだよ」
「第一、いたか、いなかっただなんて、もうどうでもいいじゃん。だって、今の俺らには関係のないことだし」
「なんだろう、すごいモヤモヤする」
「犬の名前を思い出せなかったことにモヤモヤしてたはずなのに、別のことでモヤモヤするとは……」
「余計なこと考えるからだよ。お前はそういう所があるならな〜」
「思い出さなくていいことは、思い出す必要なんてないんだよ。青田のことも、青田んちのことも、今の俺たちにはなんにも関係ない。それでいいじゃない」
「そーなのかな、いや〜でも、絶対に青田んちに犬はいたはずだけどな〜」
(完)
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