そばにいるための一つの嘘

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驚いたのか、湊斗を引き剥がそうとする律の手を、力づくで封じ込める。副作用で力の抜けた律の体は、いっそあっけないほど簡単に、地面に引きずり倒すことができた。 「痛っ、おい、湊斗?」 「お前、やりたいんだろ」  言葉を濁さず尋ねれば、律は戸惑ったように浅く頷いた。湊斗は唇の端を引きつらせながら、いいよ、と呟く。 「俺たち、同じ『アルファ』だもんな。分かるよ。でも、痛いのはきらいだ。お前が下ならいい」 「痛くしないって。だめ?」 「亀頭球、膨れてるだろうが」  律の足の間の不自然な膨らみを、見せつけるように掴む。服の上からでも分かるそれは、ラットを起こしたアルファ特有の、性器の付け根に現れる瘤だ。  やわやわと手で刺激すると、分かりやすく律の顔が歪んだ。 「俺には触るなって? ……生殺しなんだけど……」 「誰もそんなことは言ってない。発散できりゃいいんだろ」  耳から首へ、汗ばんだ肌の味を確かめながら、湊斗は自分が着ているものと同じ制服を律の体から剥ぎ取っていく。 「やるのもやられるのも同じだろ? 出せりゃいいんだから」 「まあ、そうだな。……湊斗は、そう言うと思った。いいよ、やろうか」    口元を腕で隠した律は、呻きとも笑い声ともつかぬ声を漏らしながら、ゆっくりと湊斗の腕に身を委ねていった。  晒された律の肌は、鍛えられた筋肉の線の硬さに見合わず、白く眩しい。じっくりと触れてみたい気もしたけれど、ぬるま湯のような触れ合いを今望まれていないことは、言われずとも分かっていた。  周囲の肌より一際熱く湿った場所に唇を寄せれば、ため息のような喘ぎが律の唇からこぼれ落ちる。普段はふたりで競い合うように触っていたから、こんな風に好き勝手に律に触れるのは初めてだった。  唇を舐めて湿らせてから、律の性器に舌を這わせ、深く口内に迎え入れていく。 「ん、舌、きもちいい。もっと深く、咥えて。湊斗……っ」  ねだられた通りに、湊斗は喉の奥ぎりぎりまで律のものを咥え込んだ。苦味のある味は控えめに言って最悪で、鼻先にあたる茂みの感触だって楽しいものではない。それなのに、己の行為で律が感じているのだと思うと、それだけで達してしまいそうなほど興奮した。  触られてもいないのに、律の乱れた息遣いを聞くだけで、湊斗の息まで上がっていく。  先端からぬめりのある雫が漏れ始めるタイミングを見計らい、湊斗は口をゆっくりと離した。震えるものに口付けながら、鞄からコンドームを取り出して指に嵌める。唾液の糸が伸びて切れる様子をなんとなしに眺めていると、今度こそ笑う気配を隠そうともせず、律がぽつりと呟いた。 「俺もとうとう、処女卒業か……」 「『も』?」  わずかな引っかかりを覚えて言葉を拾うと、律はしまったとばかりに目を泳がせる。 「いや、いざってなると感慨深いなと思ってさ」 「先に突っ込もうとしたのはどっちだよ」 「そうだな。うん。湊斗と違って、俺は、我慢強い方じゃないからさ」 「知ってる」  らしくもなく緊張でもしているのだろうか。腑に落ちないところはあったけれど、律の挙動不審さへの違和感は、次の瞬間きれいに吹っ飛んだ。 「……濡れてる?」 「いやん、湊斗くんのえっち」  わざとらしく高い声を出す律の言葉に反応するだけの余裕もなかった。触れた指先から、ぐちゅりとあらぬ音がする。律の尻のあわい、硬く閉ざされているはずの場所が、時間をかけて慣らした後のように柔らかく綻んでいた。指を押し込んでみれば、ぬるぬると潤ったそこは、待ちかねたとばかりに湊斗を受け入れる。 「お前、なんで」  
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