そばにいるための一つの嘘

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「――っ、――ああァ!」 「あ、起きた」  すすり泣くような声だったのに、律には湊斗が覚醒したことが伝わったらしい。のんきに「おはよう」と言いながら、絶頂の余韻でがくがくと震える湊斗の体を、抱き起こして膝に乗せる。 「な、……え、あ……なに、何。なんで……」 「あはは、間抜け面。湊斗のそんな顔、久しぶりに見たなあ」    何が起きているのか分からなくて、この状況で普段と変わらず微笑んでいる律が信じられなくて、湊斗は呆然と律を見つめた。 「お、まえ……よくも」 「ごめんな。収まらなくて。はじめは足借りてたんだけど、我慢できなくて挿れちゃった」 「い、いれた、って」  ほとんど感覚のない下半身の、あらぬ場所がひりひりと痛む。限界まで押し広げられる圧迫感と、排泄感に近いしびれるような快感が、交互に湊斗の脳を叩く。 「ちゃんと拡げたって。切れてもないし、痛くないだろ?」    見なくても自分の状況は分かっていたけれど、怖いもの見たさで見ずにはいられなかった。おそるおそる股の間に視線を落とすと、隙間なく密着した己の尻と律の股間が目に入る。ぷくりと腫れた穴のふちが、限界まで広がって、膨れた亀頭球までをずっぽりと飲み込んでいた。   「ひ……っ」 「んっ、あんま、締めないで。まだ出てるから」 「あ、ひっ、ぃあ――っ!」  意図していないのに、勝手に穴がひくついて、中に入っている律のものをきゅうきゅうと締め付けてしまう。そのたび良いところに当たるのか、目の前がちかちかするような気持ちの良さに襲われた。 「すごいな。いきっぱなし。湊斗、大丈夫?」 「あ、やぁっ! ぬいて、たすけ……っ、りつ、律!」 「あはっ、湊斗の泣き顔、たまんないな。いいよ、爪立てて。もうちょっと、付き合ってな」   声も出なかった。気持ちが良くて、体の中深くから湧き上がってくる快感が信じられない。湊斗にできたのは、ただなすすべもなく揺さぶられながら、律の背にすがることだけだった。   「あ、ああぁ! おれ、おかしい……っ、こんなの、ちがう。なに? なんで?」 「おかしくないよ。突っ込むのも、突っ込まれるのも、気持ちいいよな。俺も一緒。湊斗も俺と、同じだよ。大丈夫」  一緒という言葉にひどく安心した。律が言うのなら、きっとそうなのだろう。ぎゅう、と強く律の背に抱き着いて、湊斗は与えられる快感に身をひたす。   「りつ……、いい、きもちいい……ひっ、んぁっ」 「エロいなあ。起きてると、こうなるんだ。……ずっとこうしてみたかった」  律が笑いながら何かを言っている。頭の中が半分寝ているせいで、眠る直前の状況がいまいち思い出せない。湊斗に分かるのは、律とこの上なく近づけるこの行為が気持ちよくて、息が止まりそうなほどの幸福感を与えてくれるということだけだ。頬と頬をくっつけて、湊斗は律を急かす。 「りつ。止まらないで。もっとしよう、動いて。なあ」 「もちろん。でも、ちょっとごめんな」  律の手が湊斗の口を覆う。何のつもりかと見つめれば、困ったように律は微笑んだ。 「湊斗の声、もっと聞きたいんだけど、一応ここ学校だからな。あんまり度が過ぎると後でお前に殺されそうだし」 「え――んぅっ」  学校という単語に正気に戻りかけ、直後に与えられた快感に、全部どうでもよくなった。  律が動けなかった事故は湊斗が処理したのだ。ならば湊斗が動けないこの行為の始末は、きっと律がしてくれる。根拠もなくそう考えて、湊斗は快楽に思考を放棄した。
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