そばにいるための一つの嘘

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「……うわぁ……」 「何だよ」 「こんなこと、あっていいのかなって。……なんかさ、緊張するわ、俺」 「何にだよ」  落ち着かなさそうに目を泳がせる律を笑ったけれど、本当は湊斗だって同じだった。後戻りできない線の上に立っているような、不思議な高揚感と緊張感で、手が震える。   「何にだろう。湊斗の息子がご立派になってるの、見るのは初めてだからかな」  ぎこちなく律が笑う。いつも通りに茶化そうとしているのが分かったから、湊斗もわざと顔をしかめて返した。   「その言い方やめろ。萎える」 「萎えてないじゃん」  互いのスラックスをはだけていた手を止めて、まじまじと股間を覗き合う。風呂場やトイレで通常形態を見たことはもちろんあるし、泊まった日の朝、寝巻きごしに兆しているのを見かけたこともある。けれど律が言った通り、形を変えたものを生で目にするのは初めてだった。 「俺の方が湊斗よりでかいんだな」 「どう見たって同じサイズだろ。見栄張ってんな」 「ふーん……」  前置きなく握られて、反射的に腰を引く。喉だけで笑った律は、調子づいたように手を大胆に動かし始めた。負けじと湊斗も律の股間に手を伸ばす。普段はしない行為は背徳感が強く、気づけば湊斗はすっかりとその行為に没頭していた。 「ん、……っ、おい。律……!」 「声、良いな。興奮する」  はあ、と熱い息を律が吐く。うっとりと目を閉じ、快感を味わっている律の姿にこそ、湊斗は興奮した。  普段、律はこうやって自分を慰めているのだろうか。友人の性事情を想像して体を熱くするなんて異常だとは分かっていたけれど、自分のやり方とはまるで違う手つきに、考えずにはいられなくなる 「湊斗?」 「……ん、律」  名前を呼ばれたから、なんとなく呼び返しただけだ。それなのに、律がふっと笑う。いつもと違う大人びた笑みを向けられて、湊斗は逃げ出したくなるような、尻の座りが悪くなるような、言葉にできない気恥ずかしさを味わう羽目になった。 「……っ」 「……これ、気持ちいいの?」 「いいよ。触ってりゃ分かるだろ。……あんま、喋んな。口じゃなくて手ぇ動かせ、律」 「はいはい」    律の視線を振り切るように、湊斗は目を閉じた。  数分経って、思い出したように電気が消える。光の消えた室内には、寄り添い蠢く影がふたつ。忙しない吐息と押し殺した声を聞いたものは、互いを除いて誰もいない。
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