奇妙な森

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奇妙な森

深夜の樹海を一人の男が走っていた。 時々、背後を気にしながら全力で枯れ木を踏みつけて走る。 【ソレ】から逃れないと、死ぬのだから……。 「うわっ」 何かにつまずいて男性が倒れる。何につまずいたのか足元へ目を向ける。そこにはーー人の頭蓋骨が転がっていた。 男性は絶叫した。恐怖と混乱でうまく体を起こすことができず、赤子のようにハイハイしながらその場から離れた。 「ピギャアア!」 樹海の奥から悲鳴のような叫び声が響いた。樹海に棲む動物や鳥が慌ただしく逃げていく。 男性は、木の影に隠れた。 声が出ないように両手で口を押さえつける。 バサバサ、バサバサッ 羽の音が近づいてくる。普通の鳥が鳴らすような音ではない。大きく重量のあるような重たい音だ。 「ピギャアア」 また甲高い悲鳴が上がった。静かな樹海に不快な風が吹いた。【ソレ】が起こした風だ。 カサッ、【ソレ】が地面に降りた。男性は木の影から【ソレ】を覗き見する。 胴体は鷹のような体。首から頭は人の顔だ。だけど、口は鋭い黄色い嘴(くちばし)をしていた。 なんとも面妖な不気味な怪物だ。 【ソレ】は嘴で羽を繕っていた。鳥のような動きに男性は吐き気を催す。しかし、ここで吐けば確実に自分の存在を知らせるようなものだ。男性は、喉から上がってくる液体を無理やり飲み込んだ。 【ソレ】が男性の隠れている木へ視線を向けた。 男性はすぐに顔を引っ込め、息を殺す。 【ソレ】がゆっくりと歩いて来た。 カサ、カサと枯れ葉を踏みつける音がする。 一歩、また一歩と、男性を弄ぶかのように時間をかけて近づいて来る。 そして、【ソレ】が木の前に来た。鼻息が真後ろで聞こえる。 男性は、神に祈った。 『この化け物がどこかへ行って欲しい』 切実に願ったのも束の間。男性の真横に顔がきた。 黄色い嘴、人の顔をした化け物がいた。 「あ、あぁ……」 男性は絶叫する力もなく、目の前にいる【ソレ】をただ見るしか出来なかった。 【ソレ】の口が開き、細い舌が出てきた。男性の頬をベロリと舐めた。 そして、【ソレ】は歓喜の声を上げた。 そこで、男性の意識が遠のいた。 * * * 『次のニュースです。○月○日に行方不明の男性が樹海で発見されました。男性はすでに死亡しており、警察の話によりますと、何かの動物に食われた痕跡があるとのことで、詳しく捜査をしていく方針です』
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