令和五年

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令和五年

自分のクラスのホームルームが終わると、翔はすぐに隣のクラスへ向かった。 友達と話していた咲が翔に気付いて教室の入り口を振り返る。 「翔ちゃん」 「お、今日もお迎えが来たね。ブラコン翔ちゃん」 小学校から同級生の佐藤にからかわれると、翔は『お前はさっさと部活行け』と言わんばかりに、にやにや笑う彼を睨み付ける。 「待ってて、このプリントだけ出してくる」 こくりと翔が頷いたのを見て、咲はパタパタと廊下に走り出し、翔はその後ろ姿を穏やかな笑顔で見送った。 「双子って言ってもさぁ、こんな仲良いもんなの? 普通」 佐藤と同じく野球部の松本が、教室の後ろのロッカーから着替えを出しながら不思議がる。 「毎日教室まで迎えに来たりさ。翔と咲を見てると、ほんとにふたりでひとつって感じだし。いつも一緒にいるよね」 翔はその言葉を笑って聞き流しながら、生まれつき鎖骨あたりにある痣が疼くのを感じていた。 『わっ! どんぐりがいっぱい!』 『拾ってお母様へのお土産にしますか』 『ワンッワンッ!』 『ふふ、ショウもほしいの?』 『ワンッ!』 『いいよ、ショウの分も拾ってあげる。マツさんも一緒に拾って』 『はいはい。どんぐりにはね、いろんな意味があるんですよ』 『意味? 花言葉、みたいなやつ?』 『そう、ナラの実なら勇気。クヌギの実なら穏やかさ。この木はカシワね』 『カシワの実の意味は?』 『ふふふ。永遠の愛』 『永遠の、あい?』 『まだ難しいかしらね』 『ワンッ!』 「お待たせ! 翔ちゃん、帰ろう」 息を切らせて職員室から戻ってきた咲の声に、翔は彷徨っていた思考を目の前に向ける。 そのまま友人達に別れを告げて昇降口へと歩き出した。  
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