忠犬

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忠犬

 だいぶ冷えてきた朝の空気。  色づいたイチョウの葉がヒラリと落ちて重なり、ほぼ黄色に染まった道路を私はただ前を見て歩いて行く。 「先〜輩〜っ!!」  そんな中、毎朝聞こえる明るい声。 「お、さすが忠犬!」 「ハチくん、今朝も頑張るねー!」  周りも慣れたように声を掛けてきて笑うほど、この光景は当たり前になっている。 「はい!今日こそは!」  そんな声も聞こえてくるが、私はまるで聞こえていないかのようにして歩き続けていた。 「先輩!おはよーございますっ!」  無視をしている私の前に回り込んでくると、彼、八尾(やお)一夏(いちか)は満面の笑みを見せる。  私より十五センチほど高い身長にモサモサの黒髪。  彼は毎朝、“忠犬”と言われているのがぴったりなほど、まるで“待て”を言い渡された犬のようにキラキラした目でこっちを見てくる。  一瞥すると、大きな黒い瞳はふにゃりと垂れて大口なんて開けるから八重歯が丸見えだ。  私はすぐに視線を外して、止まってしまった足を動かして彼を避けてまた歩き出す。 「あ!待って下さい〜」  どうして待つ必要があるのか?  そもそも毎朝追いかけて来るのもいい加減にして欲しい。
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