忠犬

3/3
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
犬飼(いぬかい)!ハチがお呼びだぞ!」  昼休み、絶対からかわれているとしか思えなくて、その声の主にも睨みを効かせる。  彼がいつも追いかけてくるからだけじゃない。  私の“犬飼”という苗字と彼の“八尾”のせいで余計に私たちは“飼い主”と“忠犬(ハチ)”と認定されてしまっていた。 「ワンっ!!」  更に彼まで変にノるからタチが悪い。 「キミねぇ!」  窓際まで歩いて少し上にあるその顔を見る。すると、 「先輩も僕のこと“ハチ”でいいですよ!」  彼はにこにこと嬉しそうに笑った。 「……キミ、人の迷惑わかってる?」 「えっ!?迷惑ですか!?」  驚いたようなその反応に逆にこっちが驚く。  毎日どこでも追いかけられて……なぜ迷惑だと思わなかったのか? 「そうだったんですね。……すいません」  急にしょぼんとしたその姿。  そんなもの見えないはずなのに、耳と尻尾がペタンと垂れてしまった気がする。  私は何も悪いことはしていないのに。  どうしてこんなにも罪悪感が募るのか。  そして、どうしてみんなそんな憐れんだ目を向けてくるのか。 「……あーもぅっ!!ちょっと来てっ!!」  居た堪れなくて廊下に出るとその大きな手を掴む。  そして、私は彼を引いたまま廊下を進んだ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!