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その後、無事に名刺交換を済ませると依頼人の男とソファーに対面で腰掛け接客、、、もとい依頼内容の確認に入った。
岩雄は、長い脚をピシッと組んで人差し指を顎の下に位置取ると、ふんふん、なるほど、と頷きながら依頼人の相談を聞いている。
『くぅーん。』
(コイツのこういう、ふてぶてしいところは嫌いだ。)
一通り話し終わると岩雄は、組んでいた脚を解き身を乗り出す様に前のめりになっていた。
依頼内容はこうだ。
依頼人である、高梨 二三男の妻、高梨 理沙の帰りが最近極端に遅くなったとの事、何やら妙に色気が増して仕事帰りに香水とは違う良い香りがするらしい。
それで、二三男は妻の浮気を疑って今日【斜岩探偵事務所】を訪れたそうだ。
岩雄は至って真剣に話を聞き、いくつか質問のやり取りもあった。
「理沙さんの行動が変わったきっかけなどに心当たりはありますか?」
岩雄は真っ直ぐと男の目を刺すように見つめて聞いた。
すると二三男は少し表情を強張らせたが、何か諦めた様に話だす。
「はい。さすが探偵さん御見通しですね。きっかけは、二月程前の事です。少し妻とケンカしましてね。」申し訳無さそうな笑みを浮かべる。
『バウッ。』
(コイツにそんな見通す力は無い。)
「続けてください。」
「口論になった際、つい感情的になってしまいーーー」
どうやら二三男は、妻に対して「昔は綺麗だった」「魅力が無くなった」など、犬のワトソンから観ても『うわぁ。』と思う様な言葉を使ったそうだ。まぁ、口論なのだから同様の言葉を二三男も受けたそうだが、同じ言葉も受け手によってはその重みは天と地だ。
そのケンカを境に、妻の行動が徐々に変わっていき今に至るらしい。
二三男は、この状況にひどく後悔していて反省も見て取れる。しかし、浮気を受け入れる気持ちには到底なれず、いっそ真実を明るみして気持ちにふんぎりをつけたいと考えている。まぁ、要は別れを意味していた。
『ガウッガウッ』
(それって・・・。人間ってやつは全く。)
その時、岩雄は勢い良く身を乗り出し二三男の両手を強く握った。
「二三男さん、貴方はたしかに理沙さんをキズつけた。しかし、それに対し反省し心底悔いている。ならば力を貸しましょう!私が真実を提供致しましょう。・・・そして、一緒に謝りましょう!」
え、謝る?。二三男は呆気にとられた様にポカンと口を半開きにする。
両手は未だに強く握られている。
「所詮は浮気です。一時の感情、理沙さんもきっと本気では無いと思いますよ。調査結果がどうあれ二三男さん、貴方は理沙さんに謝りしっかり自分の気持ちを伝えるべきです。それで仲直りすれば良いんです。理沙さんをまだ愛しているのでしょう?斜岩探偵事務所が協力します。きっと関係も修復出来ます。」
燃え上がる炎は近くのモノさえ、熱くする。
「ありがとうございます。たしかに、どちらにせよ自分の気持ちくらい伝えないとですね。」
「ええ!最後までお付き合いさせて頂きます。」
『バウッバウッ。』
(コイツのこういう熱いところは案外好きだ。しかし、これはもはや調査も必要無いんじゃないか?)
関係修復を目指す事になったが、どちらにせよ真実はハッキリさせたいとの依頼人の強い希望もあり【浮気調査】を正式受注する運びとなった。
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