ようこそ 斜岩探偵事務所へ

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依頼を請け負えると二三男さんは事務所を後にした。 浮気調査に当たって、二三男さんから理沙さんの基本情報を預かった。 ・何枚かの理沙さんの写真 ・職場の情報 ・基本的日常のタイムスケジュール などの個人情報を伝えられた。 調査期間は約2週間と期限を定め、それより早く決定的シーンを、確保した場合は二三男さんに報告を入れるというもの。 事務所はまた岩雄とワトソンの一人と一匹。 主人は、理沙さんの写真をジッと見つめたままソファーに座ったままだ。 きっと自分の前妻の事でも思い出しているのだろう。 ワトソンが来る前。 斜木探偵事務所の助手は、岩雄の妻が務めていた。 しかし、二三男さん同様にちょっとした口論からお互いの溝を埋めることが出来ず結果離れる選択を選んだ。 『クゥーん』 (コイツは、自分の事に対しては全く・・・しょうがねぇ。) ワトソンは、未だにソファーから動こうとしない主人の足下へ寄り添う様に、ふくらはぎに頬を当てる。 (まぁ、元気出せよ。) 「ワトソン・・・」 寄り添ってきたワトソンに気付くと優しく頭に手を載せた。 「お前は気楽で良いなぁ。悩みなんて無くて。」 イラッ。 『ガウッ』 「痛いっ。」 足首辺りに噛みついてやった。 しばらくして、岩雄は両の太ももをパンッと叩き気合いを入れ立ち上がり掛け時計に視線を向けた。 時刻は午後の四時半。 もう少しすると、大抵の会社は定時時刻となり退社仕始める。 「ちょうど良い、早速、これから調査開始だ!」 勢い良く事務所の出口に向い駆け出す。 『ワンッ』 (おいおい、待て待て。まさか手ぶらで行くつもりか!?せめて証拠を押さえるならカメラがいるだろ。) ワトソンは、既にドアノブに手を掛けていた岩雄のズボンを噛みつき何とか引き止める。 『ガウッガウッ』 (カメラ!カメラ!) 岩雄は、そんなワトソンを見下ろし笑みを作ると。 「ワトソン。なんだ寂しいのか?悪いが、今日は大事な仕事なんだ。この燃え上がる熱意が冷める前に行かないと。」 『わんっわんっ』 (それは知っている!その前にお前は頭を冷やせ!) 岩雄はふと何かに気付いた。 「あっ。念のため写真も持って行こうか。」 (いや、持って無かったんかいっ!いや・・・これはチャンス。) ワトソンは、テーブルに先回りして理沙の写真を咥え、岩雄から距離を取る。 「あっ。こらワトソン!」 そしてそのまま、岩雄の注意を引きカメラが入ったデスクの引き出し前まで連れて行く。 「こらっ。返せ。」 岩雄はワトソンから半ば強引に写真を取り返すと、ふと何かに気づきデスクの引き出しを開けた。 「念のため、カメラを持っていくか。さすが名探偵の俺だ。抜け目が無いぜ。」 『クゥーん。』 (お前は名探偵じゃ無くて、迷探偵だ。) 岩雄とワトソンの視線が合う。 「ワトソン、お前も来るか?」 『ワンッ』 (当たり前だ。心配でおちおち昼寝も出来ん。) そして、一人と一匹はようやく事務所を出たのだった。
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