調査開始

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調査開始

とある商社のビルの前。 理沙さんはこの商社の事務員として働いているそうだ。二三男さんの情報いわく、定時は17時50分。 今の時刻が17時45分な訳だからなんとか間に合ったようだ。 早速一人と一匹は、ビルの出入り口を一望できる場所を陣取ると理沙さんが出てくるのをひたすらに待った。 20分程経った頃だろう、ビルの自動ドアが開くと一人の女性が出てきた。 遠目でも分かる。調査対象である理沙さんだ。 『バウッ』 (良しっ、行くぞ。) ワトソンが歩き出すと首輪から伸びるヒモが、ピンッと張る。 (グヘッ。) (なんだ?って主人寝てるしっ。) 岩雄は、陣取ったベンチにうなだれる様に座り寝息をかいていた。 『ワンッ!ワンッ!』 (起きろっ!名探偵!) 岩雄はビクッと肩を踊らせ起きる、よだれを服の袖で拭くと対象の女性がようやく視界に入った。 「おっ。理沙さんだ。ちょうど良いタイミングで目覚めたぜ。」 『クゥーん』  (はぁ。) 【尾行スタート】。 理沙さんとは一定の距離を保ちながら後を追う。 岩雄とワトソンは、なるべく怪しまれぬ様になるべく自然にを装う。 クンクン クンクン。 強い甘い香り。 二三男さんの言っていた通り、理沙さんは今日も香水を付けているらしい。 少し距離はあるが、犬のワトソンには充分に感じ取れた。 距離が詰まってくると、ワトソンが道路脇の花壇に鼻を突っ込んだり、電柱にマーキングしてみたりとちょうど良い距離感を演出する。 そんなワトソンの気遣いを知ってか知らずか、岩雄は真剣に尾行に徹している。 (そんなにガン見していたら、怪しいだろぉ。) その時。 「Excuse me」 観光に来ているであろう外国人に声を掛けられた。 岩雄の顔が青ざめているのは、下からでも確認出来る。 「Excuse me、Where is the station?」 「い、イエス。あいむ、fromジャパン。」 昔習った定型文をそのまま口にしたようだった。 「Where is the station?」 「あ、あー。あー。」 『クゥーん。』 (いや、知らんなら諦めろ。) 岩雄は、必死に外国人の意思を読み取ろうと努めている。 何度も外国人と同じ言葉のやり取りをしている。 「Station」 「すてしゃん?」 「No no 、Station」 「すれーしょん?」 「YES! Station」 「すれーしょう、、す、、すてぃしょん、、あ、、ステーション!駅!」 『ワンッ、ガウッ』 (おっ、何か分かったのか?こっちもそろそろ行かないと、理沙さんが見えなくなっちまう。) 岩雄はまんべんの笑みを浮べ「かもーん」と言って外国人の手を引く。 『ワンッワンッ』 (え、おい、何処行くんだよ!理沙さんはそっちじゃないぞ。見失っちまうって。) 焦るワトソンを横目に、意気揚揚と駅に向かって歩を進める岩雄。 数分歩いたところの最寄りに駅に無事、外国人観光客を送り届けると、岩雄は駅前の自販機で缶コーヒーを買い「ひと仕事の後の一服は至高。」と一言。 (仕事中に出てくる発言じゃねぇぞ。) 『ワンッワンッ』 ワトソンは、勝手にひと仕事を終えた岩雄を実際に請け負った仕事に引き戻す。
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