おじいさんの年賀状

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「きゃー」  カレンダーを見上げ、あたしは頭を抱えた。あと1ヶ月しかない!  毎年この時期には楽しみと憂うつさが入りまじって「きゃー」となるんだけれども、今年は憂うつの方が7:3くらいで多い(比を習ったばかりなんだよね)。  なぜかというと、だって来年の干支は何だと思う? たつ。辰よ辰。子丑寅卯辰(ねうしとらうたつ)……の辰。  もうすぐ年賀状の季節。スマホのあいさつでいいじゃん、という子もいるんだけど、あたしは毎年白いハガキを買って自分で絵を描く。お父さんとお母さんのまねなんだけど、そういうのもらったらうれしいし、あたしも描くのが好きだから。  でも今年は。  12年のうち一番ヤな年じゃん!   干支の中で辰が一番描きにくい。実在しないし。  なのにあたしは辰年生まれ。なぜウサギ年とかトリ年に生んでくれなかったのかと文句を言いたい。  だって辰だよ。かわいくないし、動物園にもいないし、連想するのはタツノコプロくらい。  憂うつが9:1くらいになりながら郵便局でハガキを買った帰り道。  公園でスケッチブックを開いているおじいさんがいた。見かけたことのない人だった。蝶ネクタイにチェックの上着。口ひげが何だかおしゃれ。  おじいさんのスケッチブックは真新しくて最初の1ページだった。  飼い主さんが何人かおしゃべりしていて、だからお散歩中らしいワンコたちも鼻をつき合わせていた。そのコらを見つめ、さらさらと白いページがうまっていく。  そっと後ろからのぞいてみたら、ワンコたちの楽しそうな話し声(鳴き声?)がワイワイと聞こえてきそうな。ざっと大まかなデッサンなのに、動いて飛びはねてじゃれてきそうな、そんなすてきな絵。  あたしは一瞬で吸いよせられた。一目ぼれってこういうこというんじゃないかな。
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