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次の日、おじいさんは歩道にいた。
リードを引かれて横断歩道を渡っている途中、止まってしまった耳の四角い黒いコ。それがスケッチブックの中に切り取られていた。
すねていじけている感じ、でも甘えるようにお母さんの背中を見ている目がかわいすぎる。
その次の日は、喫茶店のオープンテラスに座っているコを描いていた。大きくてのんびりしてて、何か大きな持ち手がついていて……ひょっとして道案内とかする特別なワンちゃんかもしれない。
それを、となりの席から「いい子だねえ。かしこいねえ、キミ」なんて言いながら楽しそうに手を動かしているおじいさん。
ああ残念、見えない。どんな絵なんだろう。見えないのにワクワクする。
そうしてあちらこちらに出没するおじいさんを、あたしはいつも探すようになった。
何かね、ワンちゃんを見ると細い目がなくなりそうにもっと細くなる。うれしそうに「描かせてくれませんか」と飼い主さんにたのんで。たのまれた方も、みんなよろこんで「ぜひ」とお願いするのだけれど、「その絵はどうするの?」とたずねる人もいた。
「年賀状にしようと思いまして」と、おじいさんは言った。「へええ」とみんな言うんだけれども。「ぜひうちにもくださいね!」と続くんだけれども。
あれ?
来年は、辰年だよね。犬じゃないよね。あたし、12歳になるもの。
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