ボクとサクラと桜の木

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 サクラ!  ボクは急いで振り返ると、桜の木の根元に鼻を付けた。思い切り息を吸うと、微かに甘い香りがした。  サクラ! 今助けてやるからな!  ボクは前足の爪を立て、桜の木の根元を掘った。  爪が剥がれ、血が滲んだ。それでも夢中で掘り続けた。  徐々に強まる花の香りに導かれるように、掘って掘って、掘りまくった。  サクラ……サクラ……。  サクラは、そこにいた。  顔にはもう、前みたいに艶やかな頬はないけど。  いなくなった日と同じ制服のままで。いつものカバンを胸に置いて。  あの甘くて柔らかな、花の香りを身に纏って……。 ――たろちゃん。  花弁が、サクラの身体に舞い降りた。 ――私が生まれた日、あの山の桜が満開だったんだって。だから私の名前を『桜』にしたって、お父さんが言ってた。  頬を桃色に染めながら、サクラが笑う。 ――またいつか咲くかな。ね、たろちゃん。  春の風が、桜の枝を優しく揺らした。  咲いたよ。サクラ……。  花弁が、次から次へと舞い降りて、サクラの身体を桃色に染めていった。  甘く柔らかな花の香りが、ボクとサクラを、ふわりと優しく包み込んだ。 了
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