ボクとサクラと桜の木

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ボクとサクラと桜の木

「今年も咲かないね」  サクラが、山の中腹にポツンと佇む桜の木を見上げて、残念そうに呟いた。  サクラは、ボクのお隣に住んでいるお姉さん。高校二年生だ。  ボクの家族はお仕事で忙しいから、日中はいつも、サクラの家でお世話になってる。  サクラは優しい。  ボクは、サクラと遊ぶのが大好きだ。サクラから香る、ほんのり柔らかな花の香りが大好きだ。  サクラが、大好きだ。  だけどある日、サクラが突然いなくなった。  ケイサツの人も何度か来たけど、「テガカリがない」とか「イエデ」とか言って、そのうち誰も来なくなった。 「桜……。桜……」  お隣のおばさんが、縁側で泣いている。  ボクは、黙ってそれを見ていることしかできない。  ボクにもっと、力があれば。  ボクにもっと、知恵があれば。  サクラ。  一体どこに行ったの? 「お前が駿太郎(しゅんたろう)か。かわいいなぁ」  誰だ? こいつ。 「駿太郎ちゃん。この人はね、庄司さん。桜の恋人なんだって。桜がいなくなって悲しんでいる私たちを励ましたり、一緒に捜したりしてくれているのよ」  コイビト? コイビトって、なんだ? 「でね、桜が帰って来るまで、庄司さんが時々駿太郎ちゃんと遊んでくれるって。良かったね、お兄ちゃんができて」 「よろしくな、駿太郎」  ショウジがボクの頭を撫でる。顔が近付くと、煙草の匂いがした。  ボクは頷く素振りをしながら、顔をそむけた。  ボクは、ショウジの匂いが嫌いだ。  ショウジが、嫌いだ。
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