吾が輩はペットである

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吾が輩はペットである

 吾が輩はペットである。名前はまだない。  と言いたいところだが、実はもうある。ハチ公という名だ。  私の飼い主様、ひろしとみちよのご夫妻は、毎朝どこかに出かけていく。どこへ行くのかは知らないが、どうやらにぎやかな都会の方へ行くらしい。世間とはそういうものであるようで、まったく、ご苦労様なことである。  吾が輩はいつもその途中までお供をし、お二方について歩く。毎朝の行事とはいうものの、別れのときはいつも寂しい。吾が輩の口からは、情けなくも悲しい鳴き声が漏れてしまう。  吾が輩一人の昼間は自由な時間だ。  町をぶらついたり、公園で寝たり、河原で水遊びをしたりする。気ままで気楽だが、やはり孤独というものはおもしろくない。  早く夕方になって、ひろしとみちよのご夫婦が帰ってこないかと、そればかり気にかかっている始末である。  夕方。  吾が輩はお二方を迎えにいく。  焼き鳥屋の客たちからおすそわけをいただきながら、腹ばいになって待つ。  首を長くしてただひたすら待っているとーー  来た!ひろしとみちよのご夫妻だ。 「わおおおん」  吾が輩はうれしさのあまり思わず吠える。  どうやら吾が輩のために晩ご飯を用意してくれているらしい。鼻のいい吾が輩には判るのだ。近づくにつれ、肉の、食欲をそそる香りがする。  夕げは牛肉だ。ごくり。吾が輩はよだれを垂らし、夫婦に駆け寄る。  と、そのとき!  駐車中の白い車から白衣を着た人間二人が躍り出て、ひろしとみちよのお二方の首に鉄の輪っかを掛けた。  叫ぶお二方。ひろしはくわえていた肉を地面に落とした。 「わんわんわんわん!」 「がうがうがうがう!」  お二方は白い車のなかに強制連行され、そして扉は無情にも閉められた。  乗り込む白衣の人間二人。発車し、去っていく。  焼き鳥屋の客たちが言う。 「ああ、野犬狩りだ。いまどき珍しいな」 「じゃあ保健所の車か、あれは」 「かわいそうに。あの二匹、ガス室か」  呆気にとられてその光景を眺める吾が輩。涙を流しながら、ただ哀切に鳴いた。  くううん。  くううん。  くううん。  焼き鳥屋のおやじが吾が輩に言った。 「ハチ公、八郎。あいつら連れてかれた。おまえも人間なら、犬たちのペットだなんて情けない生活やめろよ。人間の尊厳てぇものがあるぞ」  人間の尊厳?それがどうした。  そんなもので腹が膨れるか。
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