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ニュースが伝える。
「次のニュースです。今日の正午ごろXX県XX市のXX小学校に不審者が侵入し……」
ぼくの小学校にはたくさんの古いわんこたちがいる。
わんこたちはいつも学校内を走り回って、ぼくたち生徒を守っている。
今日もわんこたちは登校してきたぼくたちの間を走り回って、一人ずつ確認している。
ぼくのところにも走り寄ってきて立ち止まりぼくの顔を見ると、また登校してきたほかの生徒のところに走っていった。
教室に入って自分の席に着くと、廊下で友達がわんこの一匹と遊んでいるのが見えた。
わんこは脚はそんなに速くないのですぐに追いつくことができるけれど、力は強くて数人で捕まえても引きずられてしまうほどだ。
朝の会が始まる時間になってみんなが教室に戻ると、廊下をわんこが走っていく音が時々聞こえる。
窓際の席の友達は校庭の周りをいつもわんこが巡回していると言っている。
先生はわんこは犬ではないというけれど、それでもわんこと呼んでいる。
まるでなぞなぞみたいだ。
わんこは確かにうちで飼っている犬とは全然形が違う。
全体が丸く、軟らかくて長い毛で覆われていて足元は見えない。
目がついているのでわかるけれど、もしなかったらどっちが前かわからないかもしれない。
外も走り回っているのに不思議と汚れない。
吠えたり鳴いたり臭いをかいだりもしない。
わんこたちは時々自分の家にもどって休む。
わんこたちの家は校舎の裏側にわんこの数だけずらっと並んでいる。
そこに戻ったわんこたちは、しばらくの間じっとしていてまるで眠っているようだ。
先生が言うには「食事をしている」らしいけれど、何かを食べているようには見えない。
それにわんこの口はどこにあるんだろう?
休んでいないわんこはいつも構内を走り回っている。
晴れの日も雨の日も風の日も暑い日も寒い日も。
でも雪の日はちょっと苦手みたいだ。
雪が積もったときは先生たちが雪かきをする。
ぼくたちのためでもあるけれど、雪の上ではわんこが動けなくなってしまうことがあるみたいだ。
ある日の昼休み中に突然わんこがしゃべり始めた。
「校内に不審者を発見しました。皆さんはどこでもいいので近くの教室に入ってください」
その時のわんこは普段と違って廊下を素早く走り抜け、大きな声でそう促した。
教室で給食を食べていた先生は素早く立ち上がると、食べ終えて遊んでいた生徒たちに教室に入るように言って廊下に出ている子がいないことを確認するとドアを閉めてカギをかけた。
その間もわんこは廊下を走り回って避難を促していた。
先生は生徒たちの名前とクラスを確認した。
よそのクラスの子もいたけれどすぐに連絡したみたいだ。
校庭では8匹ぐらいのわんこが外で遊んでいた生徒の周りを走って誘導していた。
どこか遠くで知らない人の怒鳴り声が聞こえた気がする。
何人かの先生がさす股を持って走っていくのを見たという友達がいる。
何が起きているのかわからなくて泣き出す子もいた。
10分ほどするとパトカーのサイレンが聞こえてきた。
しばらくして連絡を受けた先生が教室にいたみんなに「もう大丈夫」と言った。
わんこたちもいつも通りに校内を巡回している。
その日は午後の授業は取りやめになって、生徒たちは親に迎えに来てもらって全員帰ることになった。
学校を出るとき、校門にいたわんこたちはぼくたちを確認していた。
振り返るとわんこたちはみんなの間を走り回って、全員の顔を確認していた。
ニュースは続ける。
「学校のフェンスを乗り越えて侵入した不審者はW.A.N.K.によって発見され、連絡を受けた教職員によって直ちに取り押さえられたため、生徒をはじめけが人はなかったそうです。
W.A.N.K.は W - Watchful A - Autonomous N - Networked K - Keeper の略で学校内を巡回して異常の早期発見と初期対応を担う小型ロボットであり、XX小学校はこのW.A.N.K.の最初の実用モデルである0型を導入したモデルケースの一つとして知られており、生徒たちにも親しまれているそうです」
不審者を見つけたわんこはそいつに蹴られて少し壊れたそうだけど、すぐに修理されて戻ってきた。
校長先生は事件のあった次の朝礼でわんこたちをほめていた。
先生が感謝を込めて校舎裏のわんこの家の飾りつけをしようというので、僕たちはいろいろな飾りや額縁に収めた感謝状を書いた。
わんこはロボットだからこんなことをしても意味がないという友達もいたけれど、ぼくにはよくわからない。
でも、わんこが喜んでくれたらいいな。
ぼくの小学校にはたくさんの古いわんこたちがいる。
わんこたちはいつも学校内を走り回って、今日もぼくたち生徒を守っている。
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