275人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
事情聴取はすぐに終わったものの赤くなった目で帰って父に心配をかけたくなかった私は、ファミレスで夕食を食べてから帰宅した。
嶋田のおばちゃんはネイルサロンでの騒ぎを聞きつけて私に「大丈夫?」とメッセージを送ってきたからザッと説明したけど、何も知らない父はもう寝ていた。
真っ暗な二階に上がってベッドの上に大上さんへのプレゼントを放り投げる。
辛子色のマフラー、大上さんに似合うと思ったんだけど……もうあげられないな。
明日からどんな顔で大上さんと接すればいいのか。これだから職場恋愛は難しい。
大上さんだって気まずいだろう。それとも私のことなんてケロッと忘れて、嬉々として桜さんとの復縁を社長たちに報告するのかな。
コートを脱いだ私はベッドにダイブした。
マフラーのラッピングがぐちゃぐちゃになったけど、もうどうでもいい。
結局、大上さんは桜さんのことしか眼中にない未練たらたら男のままだったってことだ。
子どもを産めそうな若い女が自分に熱を上げたから、ちょっといいかもと思っただけで、私への気持ちなんて桜さんへの愛とは比べ物にならないぐらいちっぽけなものだった。
彼が早めにそれに気づけて良かったのかもしれない。
もっと深く長く付き合ってからだったら、きっと私は立ち直れなかっただろうから。
バッグからスマホを取り出してメッセージをチェックしたけど、大上さんからは何も来ていなかった。
私がいなくなったことに彼が気づいたとしても、近所だから歩いて帰ったんだろうと考えて当然か。
それにしても「帰った?」とか一言ぐらいあってもいいと思うけど。
ショックを受けた桜さんを慰めるのに一生懸命なのかな。
「一晩中そばにいて」「ずっと俺がついてるよ」なんて囁き合って、愛が再燃していそう。
嫌な想像しか浮かんでこなくて、イブの夜は眠れないまま更けていった。
やっと眠気が襲ってきた頃、目覚ましが鳴って私は眠い目を擦りながら一階に下りていった。
生まれたての太陽がブラインドの隙間からリビングの壁を赤く染めている。
タイマー予約で洗い終わった洗濯物をカゴに入れた。朝食前に庭に干しておけば、昼過ぎには乾くから父が取り込んで畳んでくれる。
昨日洗濯しなかったから、今日は二日分。重いカゴを持って玄関を出ると、家の前に白い軽トラックが停まっているのが見えて「あっ!」と大声を上げてしまった。
大上さん。どうして?
最初のコメントを投稿しよう!