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ところが、さすがに三日目ともなると何か変だと思うようになった。
夕食のお味噌汁に入れるネギがないことに気づいて、慌てて嶋田のおばちゃんの畑に行こうとしたら、またイケオジがネイルサロンの前に軽トラを停めていたのだ。
「あら、芽衣ちゃん。ギリギリセーフよ。何がいる?」
台の上にはもう野菜は何も乗っていなくて、おばちゃんが売れ残った野菜をコンテナに入れていた。
「ネギある?」
「あるある。料金箱閉めちゃったからお金はいいよ」
そう言ってくれたから、今度の休みにいっぱい買いに来ようと心に決めた。
「ありがとう。……あのさ、おばちゃん。ちょっと訊きたいんだけど」
私が不審な白い軽トラックが三日連続でネイルサロンの前に停まっていることを話すと、嶋田のおばちゃんは「ああ。桜ちゃんの元旦那ね」と訳知り顔で頷いた。
「桜ちゃんはあのネイルサロンで働いてるんだけど、去年離婚したのよ。それなのに、別れた旦那が毎日のように職場や自宅の周りに現れるんだって」
「やだ! それってストーカーだよね!」
背筋がヒヤッとしたのは、さっき見たあのイケオジの顔つきが険しかったことを思い出したからだ。
「うーん。でも、別に暴力をふるうわけでもないし、何か言ってくるわけでもないんだって。ただ見てるだけで害はないから、桜ちゃんは放っておいてるそうよ」
「えー? 去年離婚したってことは、もう一年近くも元奥さんを見張ってるんでしょ? 怖い怖い!」
私はそのうち奥さんが殺されるんじゃないかと心配になったのに、嶋田のおばちゃんは「大丈夫よ。悪い人じゃないから」と笑い飛ばした。
こんな身近にストーカーがいるなんて驚きだ。
あんなにカッコ良くても、別れた奥さんに未練たらたらでストーキングするなんてね。
「ないわぁ」
呆れながら家へと向かっていたら、イケオジの軽トラックがまだネイルサロンの前にいた。
「お先に失礼しまーす」
可愛い声と共にネイルサロンから出てきたのは、三十代後半ぐらいの女性だった。
花柄のワンピースを着ていて、女らしい身体つき。彼女が桜さんだとピンときた。
「お待たせー」
彼女が小走りに駆け寄ったのは軽トラックではなく、ネイルサロンの駐車場に停まっていた真っ赤な外車だった。
車に乗り込んだ彼女が運転席の男とキスをするのが見えて、私は思わずイケオジを振り返った。
イケオジは悔しそうにハンドルをバンバン叩いている。
「カッコ悪っ!」
未練たらたらな上に、元奥さんが恋人とイチャイチャしているのを指をくわえて見ているだけなんて、ひたすらカッコ悪い。
イケオジだと二度見三度見していた私のトキメキを返してほしいと思った。
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