始まりと復讐開始

1/2
前へ
/9ページ
次へ

始まりと復讐開始

復讐するつもり何てなかった。 だって、笹村丸尾(ささむらまるお)だった人生をとっくに捨ててしまっていたから……。 物心をついた頃から、私は男の子が好き。 『好き』と口に出す事は、駄目な事だと本能的にわかっていたから、ずっとずっとその事を黙っていた。 仲良くなった友人達に『好きな子はいないの?』と聞かれても『今はいない』と嘘をつき続けた。 本当は、ずっとずっと『恋』をしていたのに……。 そんな私が初めて気持ちを打ち明けてしまったのは、中学の卒業式の事だった。 これが最後だと思うと、どうしても『彼』のボタンが欲しくなってしまったのだ。 報われなくてもいいから、ボタンだけでも貰いたくなってしまった。 彼の名前は、『三崎蓮人(みさきれんと)』 頭が良くて運動神経抜群。 整った顔立ちをしているイケメン。 そんな彼にもコンプレックスがあった。 それは、170センチという身長。 私は、そんな事は気にならなかっただって『三崎蓮人』の全てが大好きで愛していたから……。 好きになった日からずっと友達ぐらいには、なりたかったけれど……。 なかなか近づく事は出来なかった。 そんな『三崎蓮人』だったけれど、一度だけ話をした事があった。 それは、中学校最後の体育の授業。 この日『三崎蓮人』は、遅れてやってきたのだ。 私は、いつもみんながいなくなってから着替えていた。 いつものように、制服のボタンをゆっくり外す。 本当は、体操服に着替えたくなかった。  だって……。 女子とは違ってブラジャーをつけられないから……。  ガラガラ……。 「キャッ……」 驚いた私は、つい叫んでしまった。 「ごめん。驚かせた?って、女の声だと思ったから。ってきり、女子の更衣室に入ったかと思ったじゃん」 「ごめんなさい。つい、驚いて」 「いや、こっちこそごめん。ノックぐらいすればよかったな」 「ううん」 「お前、笹村だろ?もう、みんなとっくにグラウンドに居たぞ!そういえば、いつも授業ギリギリに来てるよな?」 「えっと……。体育が苦手だから、授業サボれないかなーーって考えてたら着替えるの遅くなっちゃって」 「へぇーー。そうなんだな。あっ、ヤバ!早く着替えなきゃ」 男子に裸を見られたくないから、着替えるのが遅いとは言えなかった。 私は、仕方なく三崎君がいる前で着替えなくてはならなくなってしまった。 心臓がドキドキと脈をうつ。 別に見られているわけじゃないの何かわかってる。 チラリと見た三崎君の体には、夏の日焼けの名残みたいなものが残っていた。 「じゃあ、先行くから」 「うん。じゃあ……」 たった一度のお喋りのせいで、私は『三崎蓮人』への気持ちを押さえきれなくなってしまったのだ。 「あの……。三崎君が好きです。そのブレザーのボタンをいただけないかなって……」 人がいなくなった教室で、私は『三崎蓮人』に告白してしまった。 「好きって何?まさか、恋愛って意味?ボタンが欲しいってそうだよな」 「えっ……あっ。それは……」 「マジで!!キモいんだけど。お前、男だろ?同性に告白するとかないだろ?」 私は、何も言い返せなかった。 「三崎。遅いぞ!帰ろう」 「蓮君、帰ろう」 「ってか、聞いてくれよ。俺、笹村に告白されたんだけど」 「えっ?男だろ、笹村って」 「キモいだろ」 「うわーー。ないわ」 本能でわかっていたのに……。 何で、こんな事を言ってしまったんだろう。 涙がポロポロと流れてきて……。 どうやって、家に帰ったのかさえ思い出せなかった。 ・ ・ ・ ・ ・ 「はぁ、はぁ、はぁ」 「うーーん。すっごい汗かいたね。椿、大丈夫?」 「大丈夫だよ。嫌な夢を見ただけだから……」 「嫌な夢?あーー、あの中学時代の話?」 「そ、それ。あっ、瑞季(みずき)遅れるんじゃない」 「あーー、本当だ。じゃあ、行くね」 「うん、気をつけて」 彼女の名前は、深堀瑞季(ふかぼりみずき)……。 性転換手術を受ける15年前に私は『彼女』に出会った。 彼氏に捨てられて、公園のベンチで泣きじゃくっていた捨て猫みたいな女の子。 話を聞いて欲しそうだったから、仕方なく話を聞いてあげた。 それが縁で瑞季は、女になりたい私を自分の働いてるスナックに連れてってくれたのだ。 私は、昼間の仕事とスナックの仕事でお金を貯めて10年前性転換手術を受けた。  今は、身も心も女だ。 名字は、『笹村』から母親の旧姓である『眞中』に変わり……。 母が女の子が産まれたらつけたかったという『椿』に改名した。 今は、『眞中椿』になった。 私は、あの街を離れて小さな田舎街に瑞季と二人引っ越してきた。 父親から、性転換手術をするならこの街を出ていけと言われていたのもある。 病気がちな母を置いていくのは心配だったけれど……。 従兄弟が母をみるから心配しないでと言ってくれたお陰で、私はこの街に来れたのだ。  新しい人生。  新しい私。 だけど、中学時代のトラウマのせいで『恋愛』は出来ないまま。 『セフレ』と呼ばれる人はいたけれど、未だ交際人数はゼロを更新中。 今年で、38歳だというのに……。 私は、ここで小さなスナック『椿』を経営している。  私の小さな城だ。 今は、『セフレ』もいなくてフリーだから気兼ねない日々を過ごしている。 自分らしさを味わえているのは、『初めて』の事だ。 『笹村丸尾』だった頃も、『眞中椿』になってからも一度も『自分らしく』いれた事はなかった。 そんな私にとって、『瑞季』といる時間は特別で大切な時間。 私にとって、『瑞季』といる時間は『特別』なもの。 トゥールル、トゥールルル♪♪ 「はい」 「深堀瑞季さんのお姉様でしょうか?」  お姉様?! 「あっ、はい。そうですが……」  とっさに嘘をついた。 「あーー。よかったです。実は、深堀さんが事故に合いまして」 「事故!?瑞季は、瑞季は大丈夫なんですか?」 「幸い命には、別状ないんですが……。未だに意識が戻っていないんです」 瑞季が仕事に行ってから、4時間ちょっとでまさかこんな連絡がかかってくるとは夢にも思わなかった。 「今すぐ行きます。場所は、どこですか?」 「二子台総合病院になります」 「わかりました」 私は、すぐに服を着替えて家を飛び出した。 『瑞季』と過ごす大切な時間が失われるなんていや……。 駅前まで、走っていきタクシーに乗り込んで『二子台総合病院』まで連れて行ってもらう。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加