始まりと復讐開始

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「お姉さん、こちらです」 「すみません」 瑞季の会社の『奈良橋』さんに連れられて私はICUにやってきた。 「どうして、こんな事に……」 「午前中の仕事が終わって、深堀さんが用があるからって言われて別れたんです。それで、俺は会社に戻って。それから暫くしてから会社に電話がかかってきて深堀さんが階段から落ちて怪我をして運ばれたって」 「階段から落ちたの……」 「目撃者によると、スーツを着た三人組が深堀さんにぶつかったらしいんですよ」 「その三人は、逮捕されたの?」 「いいえ。どこの誰かもわからないらしいです」 「瑞季は、どうして別行動をしたのかしらね」 「これを調べてたみたいですよ。あっ、ちょっと会社に連絡してきますね」 「うん」 奈良橋さんは、私に封筒を渡して急いで外に出て行った。 私は、奈良橋さんに渡された封筒の中身を開ける。 【三崎蓮人】 忘れたい名前がそこにあった。 瑞季が書類に付箋を貼っている。 【謝罪させる】 【トラウマの解除】 どうやら、私の為に『三崎蓮人』を調べていたようだ。 「すみません」 「大丈夫よ」 「三崎蓮人……一週間前にここに来たんですよね」 「そう……」 「三崎だけじゃなく、長山東吾(ながやまとうご)山下信吾(やましたしんご)金沢正春(かなざわまさはる)も調べてたんですよね」 「調べるって、相変わらず裏では探偵みたいな事やってるのね」 「まあ、表向きは営業ですけどね。社長がやっぱり探偵はやりたいようで。この四人を調べてたのは、社長の従姉妹の里山梨花(さとやまりんか)さんが何者かに刺されて強姦された事件の調査ですよ」 「まだ、目が覚めてないのよね。社長の従姉妹……」 「そうです。警察は、事件の捜査を打ちきったみたいですが……。社長は諦めきれなかったみたいで。俺と深堀と佐々部の三人で調査してたんです」 「それで、瑞季が一人で会いに行ったって事?」 「会いに行ったのかどうかはわかりませんが……。少なくとも、『三崎蓮人』と話をしたいとは言ってました。それと深堀さんが、突き落とされたのは彼等の会社近くの歩道橋です」 「彼等が何か関わっているって事?」 「申し訳ないですが……。まだ、そこまではわかってはいません」 「そうなのね。それじゃあ、わかったら教えてくれない?これ、私の連絡先」 「わかりました。これは、深堀さんの荷物とスマホです。それじゃあ、俺はいったん会社に戻りますので」 「わかりました。ありがとうございます」 私は、奈良橋さんに深々と頭を下げた。 奈良橋さんがいなくなって、私はICUに近づく。 看護士さんが声をかけてくれて、5分だけ瑞季と面会が出来た。 「瑞季……。早く目を覚ましてね」 瑞季は、いつものように眠っている。 看護士さんから、自発呼吸は出来ている事を聞かされた。 私がICUから出ると瑞季の担当医がやってくる。 私は、担当医から手術は成功して目を覚ましてもいいのだけど自分の意志で目を開けないのかも知れないと聞かされた。 医師の話によると階段から落ちる前に何か怖い事があったのかも知れないと言われた。 医師から、瑞季が目を覚ませばすぐに連絡する事を聞かされて私は家に帰宅する。 「瑞季、私をお姉ちゃんって言ってるとは思わなかった」 私は、写真立てにある瑞季の写真を見つめる。 瑞季には、家族がいない。 両親を早くに病気で亡くし、母方の祖父母に引き取られたけれど……。祖父母も他界したと聞いた。 父方の祖父母や両親の姉弟には、『死神』と呼ばれ会いに来るなと言われている話しもしてくれた。 今の瑞季にとっての肉親は、私だけなのだ。 「瑞季。目を覚ましてね」 私は、写真の瑞季に声をかけてから服を着替える。 瑞季を心配していても、働かなくちゃいけない。 私の仕事は、スナックだから……。 休めばお給料が入ってこないし。 長期で休めば、ライバル店にお客さんを奪われてしまう。 こんな事があっても、開けないといけないのよね。 私は、化粧をする。 性転換手術を受けた時に、少しだけ顔の整形をした。 元々顔が小さく、目が大きいねと従姉妹に褒めてもらった事がよくあったけれど……。 って言っても、やっぱり男らしい骨格ではあったから……。 今の私の姿を見ても、私の過去を知っている相手も気づかない。 それぐらい。 女になったと自負している。 私を『女』にしてくれたのは、この街と通りすぎていった『セフレ』 だけど、そろそろ。 特定の誰かを作ってみたい気もしなくはないのよね。 それは、『瑞季』の為にもって思ってたんだけど……。 「しんみりしちゃ駄目よ。さっ、気を取り直してメークをしましょう」 私は、鏡の前で笑いながら化粧をした。 今日は、ストライプのスーツに黒のレースのキャミソール。 瑞季がプレゼントしてくれたもの。 「じゃあ、今日も戦ってくるわね」 私は、瑞季の写真に笑いかける。 真っ赤なヒールを履いて歩き出す。 黒を着る時の私の勝負靴だ。 コツコツとヒールを鳴らしながら、私は急いでお店へと向かう。
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