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会いたくなかった人
いつも通り、6時過ぎに店についた。
『椿』は、私と従業員のなっこちゃんとレイラちゃんの三人で切り盛りしている。
15人程が座れるカウンター席とBOX席が2つ。
平日は、暇な事が多いけれど……。
週末は、『満席』になる事が多い。
今日は、『水曜日』
週の真ん中は、だいたい暇な日だ。
今日の出勤は、レイラちゃんと私の二人だ。
「おはようございます」
「おはよう」
「ママ。瑞季さんの事、メッセージで見たけど大丈夫ですか?」
「目が覚めてないのよ。でもね、傍にいても何も出来ないから……。働くしか出来ないわよね」
「私もお祖母ちゃんが危篤だった時、そうでした。何も出来ないから、働くしか出来なかった」
「レイラちゃんは、お祖母ちゃん子だったものね。暇だったら、今日は早く閉めるかもしれないけどいいかしら?」
「大丈夫ですよ。私も、明日は朝からバイトなんで早く上がっても問題ないです」
レイラちゃんは、ニコニコしながら準備をし始める。
「トイレ片付けてきます」
「よろしくね」
レイラちゃんは、トイレ掃除に行ってくれて私は掃除機をかけたりテーブルを拭いたりする。
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いつも通りに7時に開店して、1時間半が経った。
「水曜日は、やっぱり駄目ね」
「真ん中の日っていつもですよね」
「9時頃には来るかしらね。来ても、2、3人ぐらいじゃないかしらね。12時までには閉めましょう」
「わかりました」
いつもは、1時までだけど……。
今日は、12時には閉める事にした。
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カランカラン……。
9時過ぎに店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
「ママ、レイラちゃん。やっぱり、お客さんいないね。雨がちょっと降ってきたからね」
「あーー、石川さんじゃん。また、タクシー暇だったの?」
「今日は、早々と上がるつもりだったんだよ」
やって来たのは、常連さんでタクシー運転手の石川さんだった。
「じゃあ、今日はソフトドリンクじゃなくていいのね」
「いやいや。烏龍茶でいいよ。連れてきたお客さんを連れて帰らなきゃならないからね」
石川さんは、右手を大きく左右に振りながら笑う。
「えっ?石川さん。お客さん連れてきてくれたの?」
「人が少ない所でゆっくり飲みたいらしくてね。4人だけどいいか?」
「4人も連れてきてくれたの、助かるーー。ねっ、ママ」
「うん。本当に助かるわ」
「じゃあ、声掛けてくるよ」
石川さんは、いったん外に出て行く。
5分程して、4人を連れてやってきた。
「12時には、帰るって話だろ?」
「おっさんも、そこで飲んでなよ。奢ってやるからさーー」
「おっ!それは、嬉しいね。だったら、遠慮なく」
「つうか、本当に閑古鳥って感じだね」
「ってか、この辺りってマジで人少ない田舎って感じだよなーー」
「そうそう。何で、こんな場所に俺等がこなくちゃなんねーーんだよな」
文句を言いながら、4人はカウンターに座る。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
「どうも」
「へーー。田舎にこんな綺麗な人いるんだなーー。まさちゃんのタイプじゃねぇ?」
「いやいや、どっちかっていうと信吾じゃない?」
「確かに……。すげーー。綺麗だな。名前は?」
「あっ、ママでしょ?ママは、めちゃくちゃ綺麗だよ。ねぇ?椿ママ」
「あっ、私だったの?レイラちゃんの方が若くて綺麗なのに……。初めまして、椿です」
「へぇーー。椿って言うんだ。俺はね……。……」
一瞬。
彼の言葉が耳に入ってこなかった。
今、何て言ったの……?
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