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「あれーー、ママ。蓮人が綺麗だからって惚れちゃった?」
「あっ、やだ。そんな事ないわよ」
二度と会いたくないと思っていた男が目の前にいて驚いただけだ。
「何、飲みます?」
「生ビールってある?」
「ありますよ」
「じゃあ、それ4つ。みんなそれでよかった?」
「何でもいいよ」
「かしこまりました」
レイラちゃんは、生ビールを4つ用意する。
私は、お菓子をお皿に並べて4つ差し出した。
もしかしたら、この4人のうちの誰かが『瑞季』を突き落としたかもしれない。
「ママも君も好きなの飲んでよ」
「君じゃないよ!レイラだし」
「ごめん、ごめん。レイラちゃんも好きなの飲みな」
「わーーい。じゃあ、カシスオレンジいただきまーーす。ママは?」
「ビールでいいわ」
「じゃあ、入れるね」
レイラちゃんは、ニコニコしながら私の分のビールをジョッキに注ぐ。
私は、レイラちゃんのカシスオレンジを作る。
「でも、スナックで生ビールって珍しいね」
「ビールが好きな私の拘りなのよ」
「へぇーー。そうなんだ」
「はい、ママ」
「ありがとう」
「じゃあ、みんなで乾杯しようか!おっさんも……」
「はいはい」
「乾杯……」
中学の頃は、『三崎蓮人』はお喋りな気がしていた。
けれど……。
23年も経てば変わってしまったのだろうか……?
「今日さ。また、あの女が来たんだよ」
三崎は、苛つきながらジョッキをガンとテーブルの上に置いた。
「深堀だっけ?」
「そうそれ」
「今度は、何だって?」
「ずっと忘れてた。忌々しい記憶の事だよ」
「何それ?」
「中学の卒業の日にさ。笹村って奴に告白されたんだよ」
「へぇーー。やっぱり、蓮人ってモテモテだったんだなーー」
「馬鹿。ふざけんなよ!そいつが女なら良かったけどさ。相手は、気持ち悪い『男』だったんだよ。体育の授業に遅れそうになって急いで更衣室入ったら女みたいな声で叫ばれてさ。あの時、すでに俺を気に入ってたのかと思ったら気持ち悪くて堪らないよ」
三崎は、眉毛をしかめて一気にビールを飲み干した。
「うわーー。それは、気持ち悪いわ。男から告白されるのとか人生で一番嫌だわ」
「だろう?」
同じ穴の狢。
その言葉がピッタリくる4人組だ。
「おかわり」
「はい。今、入れます」
「で、その話を深堀が知ってたのか?」
「そう。それで、笹村に謝罪をしてくれって言い出したんだよ。俺のせいで、誰かとちゃんと付き合えなくなってるからとか言い出してさ。23年も前の話だぜ?今もまだ俺を好きだったらキモすぎるだろ」
「うわーー。確かに、キモいわ」
「だから、謝罪は出来ないって言ったんだよ。そしたら、あの女。ウダウダ抜かしやがるから……」
「それって、梨花みたいにしてやったのか?」
「いいね。次は、深堀がターゲット?」
レイラちゃんは、ビールを三崎に差し出した。
「あの女は、必要なかったから。別のやり方を取ったよ」
「って、何したの?」
「それは、言えないよな。信吾」
「ああ。二人だけの秘密だ」
信吾と呼ばれた男の顔色が青ざめた。
『三崎蓮人』は、『瑞季』がどうしてああなったのかを知っている。
もしかして、『三人組』の1人なのか?
「早く。新しい玩具が欲しいよなーー」
「暫くは、大人しくしとかなきゃ駄目だろ?梨花の事も嗅ぎ回られてるんだしよ」
「大人しくねーー。さすがに、嫁を抱くのはキモいけど。我慢してるんだよなーー」
「やっぱり、抱くなら綺麗な女がいいよなーー」
「わかる、わかる」
この4人は、里山梨花さんの件も何か知っている。
「もう、この話は終わり。せっかくだから、楽しく飲もうぜ」
「そうだなーー。じゃあ、歌でも歌おうかな」
「デンモクとって、レイラちゃん」
「はいはい。これとマイクもどうぞ!」
「ありがとう。レイラちゃん何か歌おうか一緒に?」
「いいですねーー」
三崎以外のメンバーは、楽しそうにカラオケを始める。
私は、その姿を見つめていた。
「なぁーー。ママ」
「な、何かしら?」
「本当にあんた綺麗だよね。この街に勿体ないぐらいだよ」
「何よそれ。お世辞はやめてよ。もうおばさんだし」
「おばさんって何歳?」
「38歳になったのよ」
「俺と同い年じゃん。ママみたいな綺麗な人、同級生にいたらすぐに口説いてたよ」
「そんなお世辞は通用しないわよ」
私が、『笹村丸尾』だと知っても同じ言葉を言う?
私の忘れたくても忘れられない『過去』の傷を掘り返して……。
大切な『瑞季』を傷つけて。
『許せない……』
三崎は、私の手を握りしめてくる。
・
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「早いなーー。もう、12時じゃん」
「蓮人、帰ろうか……」
「いや、俺はまだ帰らない」
「私も今日は、お店閉めちゃうから帰ってね。蓮人さん」
「自己紹介してなくても、みんなの名前覚えてるんですか?ママって凄いね」
「皆さんの会話は、きちんと聞いてますよ。東吾さんに信吾さんに正春さん。合ってますか?」
「合ってる、合ってる。ってか、蓮人。行こうぜ」
三崎は、私の手を握りしめて離さない。
出来るなら、今すぐここで『殺してやりたい』ぐらいだ。
「帰らない。俺は、まだ……」
「あーー、こうなったら無理だな」
「確かに……。ママさん、悪いんだけど。後で、タクシー呼んでもらえない?」
「あっ、構わないわ」
「石川さん、送ってもらっていいですか?」
「よしよし。帰るか!ママ、迎えに来てやろうか?」
「いいわよ。大丈夫」
「そうか、そうか」
「ごめんなさい。お会計してくるから、離してもらえる?」
三崎は、酔いが回ったのかカウンターに頭を置いて頷いた。
私は、お会計をいただいてレイラちゃんと一緒に送りに行く。
「また来てねーー」
「ありがとうございました。気をつけてね、石川さん」
私とレイラちゃんは、深々と頭を下げる。
「あっ、ゆっくん迎えに来たわよ!すぐに帰りなさい」
「あーー。本当だ。ママ、大丈夫?」
「大丈夫よ。私は……」
「じゃあ、片付けお願いします」
「はいはい」
レイラちゃんと急いで店に戻る。
レイラちゃんは、慌てて用意をして出て行った。
ゆっくんは、レイラちゃんが2年前から付き合っている彼氏だ。
夜中に帰宅するレイラちゃんを心配して迎えに来ている。
「ママ。一緒に帰ろう」
「いいけど、先に片付けしなくちゃ駄目だから……。待ってて」
「いいよ。早くしてくれよ」
「はいはい」
三崎は、妙に偉そうにしている。
私は、グラスを洗ったり片付けをした。
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